第35話 嵐が去ったあとに

 目が覚めたら、天井だった。

 (……あれ)

 麻衣子はしばらく、自分がどこにいるか把握できなかった。

 白い天井。

 知らない部屋。

 (ああ)

 思い出した。

 全部、思い出した。

 顔が、一瞬で熱くなった。

 「おはようございます」

 隣から、声がした。

 田中だった。

 添い寝していた。

 しかも髪を、撫でていた。

 いつから撫でていたのか、わからなかった。

 「……起きてたんですか、ずっと」

 「はい」

 「……見てたんですか」

 「はい」

 悪びれなかった。

 全く、悪びれなかった。

 「……趣味悪いです」

 「そうですか」田中は静かに笑った。「きれいだったので」

 麻衣子は天井を見たまま、言葉を失った。

 (気絶してたのに)

 きれい、って。

 「……意識、飛んでました」

 「知ってます」

 「……田中さんのせいです」

 「知ってます」

 また、悪びれなかった。

 麻衣子は目を閉じた。

 (この人は)

 最初から最後まで、こうだった。

 髪を撫でる手が、ゆっくりだった。

 さっきまでの嵐が、嘘みたいだった。

 「……誠さん」

 また、名前が出た。

 田中の手が、一瞬止まった。

 「はい」

 「……なんでもないです」

 「そうですか」

 手が、また動いた。

 麻衣子はそのまま、目を閉じていた。

 窓の外は、まだ明るかった。

 もう少しだけ、このままでいたかった。

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