第2話 子犬とお嬢様の転倒
午後の陽光が降り注ぐ庭園を、茶色の毛玉が弾んでいた。トイプードルのココアだ。
「ココアはいつ見ても可愛らしいわね。まるで、わたくしの幼少期を見ているようですわ」
お嬢様はテラスの椅子に深く腰掛け、満足げに目を細めた。
「おっしゃる通りでございます。私の記憶に間違いがなければ、お嬢様の次に、世界で二番目に可愛らしい生物かと存じます」
山本は一分一秒の狂いもなく、完璧なタイミングでお代わりの紅茶を注いだ。
「よくわかっているわね、山本」
お嬢様が優雅にカップを唇に運んだ、その時だった。
勢いよく石段を駆け上がろうとしたココアが、足をもつれさせて「コテっ」と派手に転げ落ちた。
ココアは一瞬、何が起きたのか分からないという顔で首を傾げた。しかし、次の瞬間には何事もなかったかのように尻尾を振り、再び元気に走り出したのである。
「ウフフ、ココアったら本当にドジね。……毎日世話をしている山本に、性格が似てしまったのかしら?」
お嬢様の言葉を聞いた山本の眉が、わずかに、しかし確実に数ミリ動いた。
「失礼ながらお嬢様。今朝、寝ぼけて階段から転げ落ち、膝を擦りむかれたお嬢様の手当をしたのは、他ならぬこの私でございます。ドジの系譜を遡るのであれば、血統書の方は間違いなくそちらかと存じますが」
お嬢様の顔が、一瞬で茹で上がった。
「……だまりなさい、山本! あれはわたくしがドジなのではなく、階段の段差がわたくしの気高い歩幅に合っていないのが悪いのよ。今すぐ作り直すよう、お父様に掛け合ってちょうだい!!」
お嬢様の怒声が響く中、ココアだけが相変わらず楽しげに、庭園の芝生を転げ回っていた。
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