第9話
ヴィラに戻ったとき、2階の共用キッチンの窓辺には、カンポがリールテープの録音機を前にして私を待っていた。 ヴィラの外の騒音混じりの空気を吸い込んだ私を、彼はまるで汚染された物を見ているかのように無関心に見つめた。
"外の空気は少し甘いかな?"
"いいえ。私の好みではなかったです。"
私の返事にカンポはかすかに笑いながら、テーブルの上に置かれたカセットテープを私の方に押し出した。
"アークが去った後、3階の廊下で録音されたんだ。 君がいない間にこのヴィラが何を言っていたのか聞いてみて。"
私はカンポが渡したイヤフォンを耳に装着した。 ジジクというノイズの間からヌックの低い声が漏れた。
'...アークは自分がルシエンを持っていると信じるだろう。 しかし、それがギャラリーにかかる瞬間、おじいさんの金庫も閉じてしまうだろう。 記憶は保存するものではなく、利用するものだ。'
そして続いて、誰かと通話しているかのようなカンポ自身の声だった。
'はい、議長。 計画通りにすでに実行されたようです。 次の順番は私の番のようです。 この記録は私と共に永遠に廃棄されるでしょう。」
私はイヤフォンを乱暴に取り出した。 カンポを見上げると、彼はまだ何事もなかったかのように古い卓上時計のぜんまいを巻いていた。 規則的な金属音が神経を刺激した。
"あなた、正体は何なの? 議長はまた誰だ
私の鋭い質問にもカンポは時計から目を離さなかった。
「議長ノア。」 君がこれから出会う世界だ。 私はその前にここに溜まったものを片付けるために接続ツールとして設計されたに過ぎない。」
カンポは席を立ち、自分の部屋へ向かった。 ぐにゃぐにゃした彼の後ろ姿は、祖父が設計したこの巨大なシステムの中で、古びた部品が一つ寿命を迎え、廃棄場へ歩いていくように見えた。 彼は自らを記録の中に閉じ込めることで、この家の醜い痕跡を丸ごと抱えて消える準備をしていた。
手に握ったテープの冷たい感触が手のひらに染み込んだ。 カンポが収集したその数多くのガラス瓶は遺物ではなく、この家を通り過ぎた自我たちの断片を詰めたゴミ箱だった。
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カンポが祖父の手を握ったのは、単に崩れた人生を再建するためではなかった。 彼を奈落から救い上げた祖父の背後には、時代の荒波を黙って耐えてきた巨人、ノア議長がいた。
20年前、カンポは国家記録保管所の責任者だった。 当時、ノア議長を陥れるために政敵が作成した改ざんされた不正文書が記録所に大量に持ち込まれた。 カンポはそれが偽物であることを知りながらも、「記録は必ず保存されるべきだ」という頑固な信念から、その誤答を粉砕せずに残してしまった。
しかし、その「捨てられなかった記録」は毒となって戻ってきた。 敵対勢力はカンポが保存した偽造文書を根拠にノア議長を攻撃し、その渦中で彼の忠実な支持者であったカンポの幼い弟が犠牲となった。 捨てるべき間違いを適時に捨てられなかったカンポの潔癖症が、弟の命を奪ったのだ。
カンポは自分の手に付いた弟の血を見て崩れ落ちた。 その時、ノア議長は絶望に陥ったカンポに言った。
> "あなたを恨みません。 あなたはただ記録がすべてだと信じていただけです。 しかし、今は気づいてほしいと思います。 時には紙の上に残された文字よりも、その文字が人を死なせないように消してしまうことも重要だということを。"
>
彼の言葉はカンポに大きな衝撃を与えました。 **真実を守る方法は「残すこと」だけでなく「間違ったものを消すこと(空にすること)」**にもあることに気づいたのです。
祖父は彼らの歪んだ絆を見て提案しました。
"ノア、この者はもはや記録の奴隷ではなく『フィルター』になるだろう。 世の中に残すべき本当の価値と、毒となって人を傷つけるゴミを見分ける者のことだ。 あなたの道の障害となる過去の誤答をこの者に任せよう。 このヴィラの中でそれらを分類し、時が来たら完全に廃棄できるように。」
結局、カンポはノア議長の崇高な意志と彼に対する操作された攻撃をすべて抱えたまま、祖父が設計したヴィラという安息の地に入った。 彼にとってノートは、弟への後悔であると同時に、後にノア議長が新時代を切り開く際に提示する最も強力な「真実の武器」でもあった。
ノア議長は祖父の企業が正しい方向に成長できるように道徳的な指標となった人物であり、祖父は彼が政治的な嵐に巻き込まれないように彼の「最も秘密の真実」を守る盾の役割を果たした。 このヴィラは単なる住宅地ではなかった。 過去の傷と操作された記録から自己を浄化し、新しい時代のアイデンティティを持つ『完成された相続者』を生み出す聖なる製錬所だった。
カンポはこの崇高な実験の唯一の記録者に選ばれた。 祖父はカンポに単なる監視ではなく、未来の自分が直面する「新しい現実」の目撃者になってほしいと頼んだのだ。
ヴィラに住む自我は、それぞれ祖父が消したい、あるいは自分に残したいという性質の断片だったのだろう。 プレフは冷たい理性、カンポは記録への執着、アークは偽りの自己正当化、ヌックは満たされない欲望、エイミーは弱い生存本能。祖父はこの五つの自我を消し去り、空にした一つの器に精錬されたエッセンスだけを収めようとした。
カンポが通話していた『ノア医院』は、祖父が亡くなった後、この設計を受け継ぎ管理する最終監視者だった。 カンポは彼に定期的に報告をしていた。 しかし、カンポもまたこのヴィラを支える断片化された自我の一つであったため、報告はヴィラ内部の力学関係を貫く分析ではなく、私の行動変化として推測した消滅後の兆候であった。
主人公が持っていたそのテープは、カンポがわざと残したものだった。 カンポは記録者らしく、自分が消えた後に主人公が直面する「真実の濃度」を調整していた。
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