京都の美しい街並みには、人の無念や執着が澱のように積もり、幽霊や怪異となって、街の人々と当たり前のように同居している。
人ならざる者と人とを見つめる語り手であり、黒猫である若旦那。落語のようなその語りに耳を傾ければ、京都の不思議で恐ろしくも人情あふれる街並みを見て回ることができる。
登場する怪異たちは、恐ろしくもどこか人間臭い。
登場する人間たちには人情あふれるあたたかさを感じることもあれば、諦めのようなやるせなさを感じることもある。
若旦那は「不憫やなあ」と言いながらもそんな人と怪異のそばにいる。
それは、お師匠さんと積み重ねたこの街をただの薪にはしたくない――そんな若旦那の気持ちの表れなのだろうか。
舞台は京都。
歴史と伝統、品格をもって人々を魅了するその場所は現代まで観光地も多く、はるか昔より栄える都。
されど旅の案内人である黒猫の"若旦那"の後をついていく先に広がるのはその<裏側>。
華々しい表の顔から一つ路地に入れば、冷たく湿り気を帯びたどこまでも広がる闇が冷たい風とともに背筋をなぞるよう。
気を許せば――食われてしまう。
人が生む、土地が生む澱みはすぐそばに。
そこに息づく暗闇がそこはかとない緊張感となって読者に忍び寄ります。
でもね、ただ怖いだけじゃないんです。
若旦那のその語り口に興味を駆られては好奇心に勝てず今日もページをめくってしまうんですよ…!
引き返さない覚悟――
いえ、読む手が止まらなくなる覚悟はできましたか?
京の都を舞台にした、美しさと醜さを抱き合わせた珠玉の一作です。
ぜひ、お手に取っていただきたい。