第6話 ノルンの覚悟
覚悟は決まった──
だが、
その時にはもう、
手の中の剣は朽ちていた。
残ったのは、何もない。
逃げ場も、打つ手もない。
押し潰されそうな圧の中で、
ノルンは思考を巡らせる。
その時──
ふと、視界の端に引っかかるものがあった。
床に散らばった
木の破片。
(これ……剣の代わりに)
その瞬間、思考が繋がる。
俺は勢いよく振り返り、叫んだ。
「アッシュ!! ほんの少しでいい……この魔圧を遮ってくれ!!」
「──任せろ」
アッシュが巨大な盾を床に叩きつけた。
ガリィッ! と床が抉れて、
少女から放たれる拒絶の濁流が盾にぶち当たる。
火花を散らしながら、
その濁流は左右へ逸れた。
そして、俺の前に、
ほんの少しの道が開く。
「くっ……長くは持たねぇ! 持って1分だ!」
「テオ! どこを狙──」
言い終わる前に、
テオはすでに前髪をかき上げていた。
右目に浮かぶ魔法陣が、青く光る。
「もう見えてる」
その声に、迷いはなかった。
「彼女のすぐ外側だ! そのまわりに纏ってる“漆黒”を断て!」
だが、右目に宿した青い光がわずかにぶれた。
テオの顔色が、さっと変わる。
「いや、待て……近すぎる! 彼女まで巻き込むぞ!」
「大丈夫だ」
傍に転がる木片を手に取り、
剣と同じように両手に構え、目をそっと閉じる。
「俺は──魔力だけを断ち切れる」
守るための剣だ。
傷つけるためじゃない。
イメージしろ。
これは剣だ。
魔力をまとえ。
木片を握る指先に、
じわりと熱が宿る。
青い光が木片を包み込み、
刃のように伸びていく。
それはやがて、
剣と見紛うほどの長さを形作った。
「……いける」
「ノルン! もう保たねぇ、盾が割れる!」
アッシュの叫びと同時に、
俺は低く身を沈めて駆け出した。
床を蹴る音すら置き去りにする速さで、一気に距離を詰める。
青い閃光を纏った木片が、
彼女を包む漆黒へ振り下ろされる。
焼けるような音が弾けた。
漆黒の膜が、真っ二つに裂ける。
左右へ霧散していく黒の向こうで、
彼女の小さな身体が見えた。
刃は、確かに届いていた。
それでも傷ついたのは彼女じゃない。
断たれたのは、彼女を包んでいた拒絶だけだった。
──次の瞬間、世界から音が消えた。
ただ柔らかな青い光だけが、部屋を満たしていた。
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