第5話 成長と期待
六日目。
遥人がダンジョンに到着すると、受付の女性が驚いた顔で彼を見た。
「まさか……まだ来るんですか?」
「はい。今日もお願いします」
「あの、あなた……レベル、いくつになりました?」
遥人は少し迷ったが、正直に答えた。
「19です」
受付の女性の顔色が変わった。彼女は慌てて何かを端末で調べ始める。
「ちょ、ちょっと待ってください。初心者期間のレベル上限って、普通10ですよね? それにこのダンジョン、推奨レベルは1から5で……」
「問題がありますか?」
「い、いえ……法律的には問題ありません。でも、これは……」
女性は何かを言いかけてやめた。そして、深く息をついて遥人に笑顔を見せた。
「わかりました。どうぞお気をつけて。それと……明日の転職、楽しみにしていますからね」
「ありがとうございます」
遥人は軽く頭を下げ、ダンジョンへと入っていった。
今日も、彼は戦う。ただ、ただ戦う。
それが自分のために、そして両親のために、最も確実な道だと信じて。
その日の夕方。
遥人がダンジョンから出ると、外には思いがけない人物が待っていた。
五十代半ばほどの男性。厳つい顔立ちに、白髪交じりの短髪。スーツをビシッと着こなしているが、その体躯は明らかに普通のサラリーマンではない。何より、彼の左手の甲には──遥人のものよりもはるかに複雑な紋章が刻まれていた。
「君が、初心者ダンジョンに六日間連続で通っている少年か?」
低く、しかしどこか優しさを含んだ声。遥人は無意識に背筋を伸ばした。
「はい。神谷遥人です。あなたは?」
「五十嵐剛蔵。覚醒者大学の教授だ」
その名に、遥人の心臓が跳ねた。五十嵐剛蔵。元Sランク覚醒者。現役時代は「岩壁の剛将」の異名を持ち、数々のダンジョンを攻略した伝説的な人物。現在は覚醒者大学で教鞭をとり、次世代の育成に当たっている。
「ど、どうして私のような……」
「噂を聞いてな。初心者ダンジョンでレベルを19まで上げた少年がいると。五十年の歴史で前例のない話だ。興味が湧いてな」
五十嵐はじっと遥人を見つめる。その眼光は鋭く、遥人は見透かされているような感覚に陥った。
「……木刀で、守護者を倒したとも聞いている。初心者用の武器で、推奨レベルを三倍以上上回るボスを倒すとはな」
「たまたまです。動きのパターンが見えたので……」
「たまたま、か。そういうことにしておこう」
五十嵐は小さく笑い、そして真剣な表情で言った。
「神谷君。明日、転職の間に行くのだろう? 結果を聞かせてくれ。私は君に興味がある」
「はい……わかりました」
五十嵐は満足そうにうなずき、背を向けた。去り際、彼は何かを思い出したように振り返る。
「一つだけ言っておく。明日、転職水晶に触れる時は──心を空っぽにしろ。何も考えず、ありのままの自分を水晶に委ねるんだ」
「……はい」
遥人はその背中が完全に見えなくなるまで、深く頭を下げ続けた
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