第32話:蒼刃の来訪者
「――見えているのか」
静かな声だった。
だが。
それだけで、空気が変わる。
「……っ」
体が、勝手に構える。
「ユウマ……」
アカリが小さく呟く。
「これ、さっきのとは……」
「別物だな」
即答する。
視界には、はっきりと表示されている。
【個体名:蒼刃の
【所属:外部管理領域】
【脅威度:???】
「……見えねぇ」
情報が、途中で途切れている。
「解析不能……?」
セラが低く言う。
「そんなこと、あり得るの……?」
「あるんだろ」
目の前にいる。
それが答えだ。
「……」
《ブルー・エッジ》が一歩、近づく。
それだけで――
「……っ!」
圧が、増す。
呼吸が、重くなる。
『これ無理だろ』
「確認する」
そいつは、まっすぐ俺を見る。
「なぜ、“観測”できる」
「……さあな」
肩をすくめる。
「気づいたら見えてた」
「……」
わずかな沈黙。
「後天的発現か」
「便利な言い方だな」
「否定はしない」
「しねぇよ」
アカリが一歩前に出る。
「ユウマ」
「……ああ」
分かってる。
「戦うか?」
「……いや」
首を振る。
「まだだ」
「え?」
「今は情報が足りない」
「……」
セラが小さく頷く。
「正解」
「今あれとやるのは、無謀」
『珍しく冷静』
だが。
「……賢明だ」
《ブルー・エッジ》が言う。
「無駄な消耗は避けるべきだ」
「……意外だな」
「何がだ」
「襲ってこないのか」
一瞬の間。
「目的が違う」
「……目的?」
「観測」
短く答える。
「お前の成長を確認する」
「……は?」
『完全にボス上司やん』
「お前は、未完成だ」
「……」
否定できない。
「だが」
わずかに目が細まる。
「可能性がある」
「……」
「だから」
一歩、近づく。
「壊すには、惜しい」
「……は?」
アカリが顔をしかめる。
「何それ、上からすぎない?」
「事実だ」
「……ムカつく」
「同感だ」
ナイフを握る。
「でもまあ」
一瞬の間。
「見逃してくれるなら、助かる」
「対価はある」
「だろうな」
「次に会う時」
空気が、さらに張り詰める。
「完成していなければ」
「……」
「排除する」
『死亡宣告きた』
「分かりやすいな」
「単純な方がいい」
「……違いない」
一瞬、視線が交差する。
そして。
「一つ、教えてやる」
「……なんだ」
「このダンジョン」
わずかな間。
「“世界の外”と繋がっている」
「……」
「お前が見たもの」
「それは、ここじゃない」
「……っ!」
思い出す。
あの景色。
崩れた世界。
「……やっぱりか」
「いずれ分かる」
一歩、下がる。
「その時まで、生きていろ」
次の瞬間。
――消えた。
「……」
静寂。
「……なんだったの、あれ」
アカリが呟く。
「……さあな」
ナイフを下ろす。
「でも」
確実に分かったことがある。
「……敵だ」
「ええ」
セラも頷く。
「しかも、かなり上位」
「だな」
一瞬の間。
「準備しないと、死ぬ」
「……」
三人、顔を見合わせる。
そして。
「強くならないとね」
アカリが笑う。
「ああ」
小さく頷く。
「次は、勝つ」
その言葉は。
自然に出ていた。
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