第14話:近すぎる距離と、消えない違和感

「……《運命改変(バグ)》」


小さく呟く。


その名前だけで分かる。


「絶対、ロクでもないやつだろこれ」


『正論www』

『名前からしてアウト』


アカリが真剣な顔で言う。


「使い方、慎重にして」


「言われなくてもそうする」


セラも腕を組みながら続ける。


「むしろ、しばらく使わない方がいいわね」


「そんなヤバいのか?」


「ええ」


セラは即答する。


「“運命”なんて触っていい領域じゃない」


「……まあ、だろうな」


頭の奥に残る、あの光景。


あれが、このスキルと関係しているとしたら――


「……」


その時だった。


――ズキッ


「……っ!」


また、痛み。


視界が、一瞬揺れる。


「ユウマ!」


アカリの声。


「大丈夫!?」


「……ああ」


だが、その瞬間。


“見えた”。


さっきより、はっきりと。


崩壊した街。

倒れた人影。


そして――


血に染まったナイフを持つ、自分。


「……っ!」


「ユウマ!?」


現実に引き戻される。


「……なんでもない」


「なんでもなくないでしょ!」


アカリが強く言う。


「顔色、明らかにおかしい」


「……大丈夫だって」


「無理しないで」


「無理してない」


少しだけ、言葉が強くなる。


一瞬、沈黙。


「……ごめん」


「いや、こっちこそ」


空気が、少しだけぎこちなくなる。


その時。


「――ふふ」


「?」


セラが、小さく笑った。


「やっぱり面白いわね、あなた」


「……どこがだよ」


「全部」


そう言って、近づいてくる。


「ちょっと」


アカリが警戒する。


「距離近いわよ」


「いいじゃない」


セラは気にせず、さらに一歩。


「ねえ」


「なんだ?」


「さっきの、“見えた”でしょ?」


「……」


図星。


「何が見えたの?」


「……」


少し迷う。


だが――


「……最悪な光景だよ」


「へぇ」


セラは興味深そうに笑う。


「例えば?」


「……」


言うべきか。


迷う。


だが、口が動いた。


「……俺が、全部壊してた」


一瞬、沈黙。


『重くなってきた』

『伏線やばい』


アカリの表情が、強張る。


「……それ、本気で言ってる?」


「分からん」


「ただ――」


「妙にリアルだった」


セラは、少しだけ目を細める。


「なるほどね」


「納得したか?」


「ええ」


あっさり頷く。


「そのスキル、やっぱり危険だわ」


「だろうな」


「でも」


セラは、少しだけ笑う。


「だからこそ、面白い」


「……は?」


「普通の力じゃない」


「未来に干渉する力」


「それってつまり――」


一瞬の間。


「世界を壊す可能性があるってことでしょ?」


『言い方www』


「笑えねぇよ」


「でも事実よ」


セラは真っ直ぐ俺を見る。


「だから」


さらに一歩。


「私が見ててあげる」


「……は?」


「暴走しないように」


距離が、近い。


近すぎる。


「ちょっとセラ」


アカリが間に入る。


「近いって言ってるでしょ」


「別にいいじゃない」


「よくない」


バチバチ。


『修羅場で草』

『距離感バグってる』


「……お前らな」


思わずため息。


「こんな状況で何やってんだよ」


「こんな状況だからよ」


セラが即答する。


「命のやり取りしてるんだから」


「近くなるのは当然でしょ?」


「……理屈は分かるけどな」


アカリが、少しだけ俯く。


「……私は」


「?」


「ちゃんと、守るって決めてるから」


その言葉は、小さいけど。


はっきりと、届いた。


「……頼りにしてる」


「……うん」


少しだけ、柔らかい空気。


だが――


その裏で。


「……」


俺の中の違和感は、消えなかった。


“あの未来”。


あれが本当に起こるなら――


「……」


俺は、何を選ぶ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る