常春の地に『冬』が訪れ、降らない筈の雪が降る。
物語の冒頭は春に満ちた場所に訪れることのない冬と雪が印象に残る場面から始まります。
物語の主人公は修復師として店を営む群雲紗々羅。
そして共に行動するのは冬の髪色を持つ軍人である緑青。
店に冬を纏う男が訪れ、常春の地に雪が降ったことをきっかけに次から次へと起きる異変に紗々羅は巻き込まれていくのです。
この世界にはひとつひとつ、その地に根差した「約束」があります。あるいは日常の傍らにある禁忌というのでしょうか。
それらに異変が起きた時、常春の温かさが身を切るような冬に変わる瞬間のどきどきを読者にありありと伝えていきます。
異世界の醍醐味が詰まった世界観は作者様の筆力が光り、読む人を違う世界へと誘ってくれるのです。
特筆すべきはやはり、それぞれの関係性でしょうか。
紗々羅と緑青、そして紗々羅をとりまく大人達。
不思議に満ちた世界観も相まって彼らが織り成す関係性に夢中になっていきます。
これは雪解けの物語です。
常春の地ですから雪解けというのはおかしな話ですが、雪解けだと思います。
雪が降り、雪が解け、再びの春が訪れる。
だからこの物語は雪解けだと私は思うのです。
如何にして雪は解けたのか。
雪の解けゆく様を見守る物語を是非、堪能して欲しいです。
GW中の数日間で更新された当作品。私の連休の最大の楽しみとなりました。目覚めたら好きな小説がどん!と更新されていて、がっつり読み耽る朝…ああ、なんというしあわせ。
何がこんなに好きなんだろうと考えた時に思い浮かんだのが、キャラクター同士の関係性です。
主人公は壊れた物の声を聞きそれを直す「修復師」と呼ばれる19歳の女性。依頼を持ち込んできた男性のむちゃ振りにも粛々と応え、彼の一級品の顔の良さに一切流されることもなく。とある事件を追いながらちょっとだけ信頼を深めていきます。
え。恋愛とかはないのかって?ありません(きっぱり)今後があればどうなっていくふたりなのか正直予想はつきませんが、とりあえず今は何もありません。
いやいやでもね。この関係性から染み出る栄養が好きな人って絶対いると思うんですよ。それは読んでぜひお確かめいただきたいですが、もし関係性フェチを有していない方でも大丈夫。異世界ファンタジーとして、もしくはライトミステリーのような感覚でもおもしろい作品です。
主人公と彼女を幼い頃から見守ってきた大人たちの間に起きている、過去からのしがらみを解き放つための物語でもあります。徐々に明かされる謎にとにかく夢中でしたが、ひとえに巧みな文章力の為せる技であると感じます。
ああ、本当におもしろかったな。読めて嬉しかったです。感謝!