春の宵に実家に赴き父と問答をする男。
父は半紙に墨痕鮮やかな亀を描く。
恰も希臘神話の物語の如く、代々、亀の
厄により当主が逝去するのだと語りつつ
父の半紙からは、のそりと亀が這い出して
母の許に近づいて行く。
男は鶴を半紙に描き、鶴は亀を咥えて
飛び去るのだが。
静かな春の宵闇に紛れて父子の問答は続く。
美しい 母 を巡り、手遊びに半紙に
描かれる亀と鶴。
因果は、災厄は巡るのか。
折しも、春雨が庭を濡らす。
幻想的なモノクロの世界の中で、鶴が、亀が
存在しない寓話を携え、夢とうつつの世に
放たれて行く。
作者ならではの知的な幻想譚である。