村娘、皇子妃になる。──でもね、おとぎ話じゃ生き残れません!

大井町 鶴(おおいまち つる)

◆ 第1章:王城の洗礼

私が王女?冗談言わないでもらえますか?

蜂蜜色の髪が風に揺れている。


川で洗ったシーツを木と木の間に張ったロープに引っ掛けると、ヴェーラは風に吹かれ乱れた三つ編みを綺麗に編み直した。


「ああ、今日も平和だわ~」


天気もいいし、青い空には白い雲がゆったりと流れていく。


でも、そんな彼女を――王城から来たという兵士が、先ほどからじーっと見ていた。


「ヴェーラ姉ちゃん、これも!」


近所の子どもが自分たちの洋服を持ってやってくる。


「丸めたまま脱がないって言ってるでしょ!もう」


いつも通りの自分をさらけ出していた。


(ずっと観察されて気味が悪いわ。どうして兵士が私を見てくるのよ)


警戒しながら近づいてきた兵士とその後ろに続く紺色ジャケット男に向かってヴェーラはわざと口元に笑顔を浮かべた。


「こんにちは!こちらの村になにか用事ですか?」


文官風の男が眼鏡をくいっと上に持ち上げる。


「はじめまして。ヴェーラ殿。王命により、あなた様をお迎えに参りました」

「はい?王命?」

「そうです」


思ってもみないことを言われた。


ふざけているのかと思いきや、文官男の声はとても硬くて、川の流れる音とは不釣り合いだ。


「……どういうことですか?」

「あなた様は、前王妃の御子です。陛下はその血筋を公にして、あなた様を王女としてお迎えになられたいと仰せられております」

「はああ?」


なにかの間違いじゃないかと思ってヴェーラは頬を思わずつねった。


「夢ではありません。現実です」


文官男が淡々と言う。ムッとしてヴェーラは口を開いた。


「あの、私はこの村で育ったわけで、そんなことを言われても本気にできるわけがないではありませんか」


自分の家の方に目をやると、両親がこちらを不安そうな顔で見つめている。脇には兵士が立っていて、冗談ではなさそうみたいだとだんだん認識してきた。


「……本当の話だというの?」


その様子を見た文官男は腕を組み淡々と言う。


「……ふうむ。あなたは舞い上がるでもなく冷静なのですね。てっきり、王女となり城暮らしできるのを喜ぶのかと思いきやそうではないらしい」

「私は現実的なんです。私は自分が普通の村娘だと思っていたんですよ。すぐに納得できるわけがありません」


目を見てしっかりと言い返すと、文官男はニヤリとする。


「言われてみればそうですね。あなたは本当の立場を知らないでしょうから、きちんと説明してさしあげます。……現王妃様の意見によって前王妃様の御子であるあなたは隠され育てられました。まあ、権力による運命の狂いというものでしょう」

「……それがどうして、今になって呼び戻されるというの?」

「王が現王妃派ばかりの力が強くなってはいけないと考えられたからです。あなたがいれば、少なくとも前王妃派が喜びます。まあ、必要な対抗勢力と言えばいいでしょうか」

「勝手ね……」

「さあ、馬車が待っておりますから行きましょう」


説明は終わったとばかりに文官男が連れて行こうとする。


「ちょっと待って!お父さんとお母さんと話をさせてちょうだい!」

「あの者たちは本当の両親ではありませんよ。充分、報酬は渡しました」

「そういうことではないでしょ!」


キッと厳しい目を文官男に向けると、彼は黙った。


「では、村の入口で待っておりますので」


文官男は兵士に合図してヴェーラに張り付かせると、入口へ向かって歩いていく。


ヴェーラは両親の元に急いで駆けた。後からガチャガチャ鎧を響かせて兵士が走ってくる。


そんな様子を村の入口から見ていた文官男が呟いた。


「想像と全然違ったな。とても気が強い。王族らしい要素は確かにあるのかもしれない」


マティアスの呟きが耳に入った兵士は、姿勢をそっと正したのだった。

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