魔法塾閉鎖。アルカナの逮捕。
第15話二人目の弟子。――アルカナは捕まる。
「すごいわ、クロ! 見なさい、あの生意気な弟を完封したのよ!」
「いえ……。これはすべて、アルカナ様の教えがあったからです」
クロが私に向き直り、穏やかに微笑む。その一歩一歩が、かつての自信なげな青年とは違っていた。
自分のためだけでなく、誰かのために強くなりたい――。その眼差しには、確固たる意志が宿っている。
「アルカナ様。僕……やっぱり、ここの塾に入りたいです。もっと強くなりたい。……あなたのように、真実を知りたいんです」
「……。まぁ、いいわよ。一人くらい増えたところで、演算の誤差みたいなものだしね」
私はフッ、と前髪に息を吹きかけて視線をそらした。素直じゃない私の態度に、フェルがニヤけながらクロの肩を抱く。
「よかったな、クロ! これでお前も、師匠のブッ飛んだ理論を浴び放題だ!」
「……は、はい!」
和やかな空気の中、ようやく意識を取り戻したアルが、地面に這いつくばったまま毒づいた。
「……おい。僕、全身が悲鳴を上げてるんだけど。誰か肩を貸そうとか、そういう人間らしい思考は持ち合わせてないわけ?」
「あら、忘れてたわ」
私は、よろよろと立ち上がろうとする弟君の腰に手を回し、グイと引き寄せた。
「な、ななな……っ!? あんた、羞恥心とか無いの!? 心臓に悪いわ、馬鹿!!」
アルは顔を真っ赤にし、バクバクと暴れる鼓動を抑えながら絶叫する。そして、フェルと笑い合う兄を睨みつけた。
「……兄さん。今回は認めてやるよ。でも次は絶対に僕が勝つからな! あと、その……なんだ、……ごめん。」
「大丈夫だよ、アル。次も僕が勝つから」
「……ふん! 言ってろ!」
――良かった。
心の底から、そう思えた。最悪の兄弟喧嘩を、最高の「魔法」で解決できたのだから。
だが。
美しき大団円を、クロの「ボソボソ」とした声が打ち消した。
「あ、アルカナ様。忘れてました……これ、受け取ってください」
「ん? なに?」
「入会には、これが必要なんですよね……」
クロがポケットをゴソゴソと探り、私の手のひらに「それ」を置いた。
――生温かい。
――柔らかな、綿の感触。
私の手に鎮座していたのは、紛れもない、男物の「パンツ」だった。
「……これで、僕も魔法塾の仲間入りですね!」
晴れやかな笑顔のクロ。
その瞬間、フェルが音速のステップでクロから距離を取った。
(こいつ……まだあの嘘、信じてやがったのか……!)
「……兄さん。さすがにそれは、実の弟として引くわ」
「えっ?」
「……」
私は、自分の手のひらにある「それ」と、無垢な瞳のクロを交互に見た。
思考が停止し、そして――結論が出た。
(気持ち悪っ!! ――この子、本物の変態だったんだわ!!)
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「えー、では。土の含有率が90%を超える場合は――」
翌日、私は机の上に広げた古びた羊皮紙にペンを走らせ、授業を行っていた。
目の前には、熱心にメモを取るクロと、熱心に聞いているけど頭に入っていないフェル。
だが、その学びの時間は、暴力的な足音によって粉砕される。
「――おい。フェル・ゲイルはここにいるか!」
不遜な声と共に、鎧を鳴らして現れたのは「騎士団」の一団だった。
「……騎士団長。なんだよ。」
「お前こそ、こんな掃き溜めで何をほっつき歩いている! 王都がどれだけ忙しいと思っているんだ!」
「別にいいだろ。俺は師匠に――」
「この女のせいか。おい、こいつも連れて行け!」
団長の指が、私を指す。フェルが叫んだ。
「!? 師匠は関係ねぇだろ!」
「あ、あの! 待ってください……ぼ、僕まで連れて行かれるんですか?」
クロがおずおずと尋ねるが、団長は鼻で笑った。
「当然だ。この女にたぶらかされ、悪質なデマに加担した『証拠品』として、充分な形にはなるだろうよ」
「……あぁ、わかった。俺が行けばいいんだろ?」
フェルがそう言っても、誰も私の拘束を解こうとしない、逆に、壊さんばかりに握りしめた。
「痛っ……!」
「貴様については、最近不穏な噂が絶えないからな。『魔法塾』などという得体の知れない場所を開き、属性カーストを否定するデマを流布している……。教会の教えを汚す国家反逆罪だ。……全員、連行しろ!」
「ちょっと待ちなさいよ! 私はただ、この世界の真理を教えているだけよ!」
「……関係があるかどうかは、これから地下牢で、じっくり決めていくことだ」
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