古代地中海世界の白い城壁や獅子門、海風、失われた文字といったモチーフが、まず淡麗と浮かび上がります。
しかも読み進めるほど、それは単なる“雰囲気の良さ”ではなく、土地に積み重なった負の記憶として重みを帯びてくる。その描き方にリアリティがありました。
特に印象的だったのは、リュシアスが城壁の文字や物見櫓の祈りを通して、「この街の現在」が「滅ぼされた過去」の上に築かれていることを静かに暴いていくくだりです。場面自体は決して派手ではないのに、ぞくりとするほど印象が強い。
剣や戦ではなく、“文字”によって歴史の真実が露出していく構図に、この作品ならではの強さを感じました。
さらに見事なのは、こうした重い主題を、イリアのまっすぐな好奇心、ラウィニアの曲がらない忠誠、リュシアスの飄々とした態度という三者の会話の中で、無理なく読み進めていける。
単なる設定説明に落ちず、人間関係の揺れそのものが歴史の裂け目を見せてくる。
「古代の謎」や「失われた文明」を扱いながら、実際に描いているのは、記憶を奪われた側と、奪ったことすら忘れて生きる側の非対称さなのだと思いました。とても読み応えのある作品です。