第13話 パーコレーター

「この器具ね、パーコレーターって言うんだ」

 僕はパーコレーターを手に取った。


 自分がそこに映るのがなんか恥ずかしくて、わざわざサンドペーパーでヘアライン加工にしたパーコレーター。味があまり好きではなくて、ほぼ新品である。

 使用した時間よりも、加工した時間の方が実は長い。


 「パー……コレーター?パーコレーター」

 初めて聞く言葉をレオンは復唱している。


 話しながら、フィルターに砕いたコーヒーを入れる。お湯の量は目安(540ml)ラインがあるから計れるけど、粉は計る方法がないので、実は砕く前に豆の数を数えておいた。

(浅煎り豆だと大体6〜7粒で1グラムだから……とりあえず40グラム分で280粒くらい?濃かったら後で調節すればいいや)

 こんなことを毎回やってたんだから、ベートーヴェンってやっぱり凄い。


 鍋のお湯が湧いたので、パーコレーターにお湯を入れる。

「この……パーコレーターだったかしら?お湯も沸かせるのよね。水からじゃダメなの?」

 母が聞く。

(おっと、さすが母さん、スルーしようと思ってたのに……)

 僕はバスケットに粉を入れながら答えた。

「水でもできるよ。というか、水からやるのが普通だね。雰囲気はそっちの方が出るよ。今日は時間短縮、ほら、お湯沸かす間に種砕いたり、いろいろできるでしょ」

「確かにそうね……でも雰囲気?」

「あ、前世の世界だと外で料理したりするのになんか憧れがあったんだ。ゆっくりじっくり待つのも価値があって……ここじゃあんまり関係ないけど」

「そういうものなのかしらねぇ」

「水からやるより味もすっきりめになるよ」


 バスケットに内蓋を被せ、パーコレーターに入れて蓋をする。

「じゃ、火にかけるよ。面白いからこの透明な部分を見てて」

 お湯からスタートしたので、すぐにポコポコと音を立てながらお湯が上がってきた。

「何これ、なんかお湯が当たってる?」

 レオンが言う。

「そうそう。この上がってきたお湯が下に落ちて、粉に当たって、成分が抽出されるんだよ」

「なんか色が変わってきた」

「ここで出来上がりを見極めるんだ」

 4分くらい経って液体が茶色くなったのでパーコレーターを火から外す。

「できたよ!」


 僕はカップに少しだけコーヒーを注いで味見をした。


(あぁ、コーヒーだ。美味しくはないけど……コーヒーだ。でも少し濃いな)


 鍋に残っていたお湯を少し足す。こういうときのためにわざわざ鍋でお湯を沸かしていたのである。

「それも必要な作業なのかしら?」

「いや、濃さがちょうどよかったら必要ないよ。ちょっと濃かったから」

「薄めて大丈夫なの」

 僕は人数分のカップにコーヒーを注ぎながら答える。

「大丈夫。あ、これ大事なことだから覚えといて。薄いコーヒーを濃くすることはできないけど、濃くなったコーヒーを薄めるのは全然平気。今日は自信なかったから濃いめに作ったんだ」

「なんとなくわかったけど……コーヒーというのは何かしら?」

「あ、ブンナのことだよ。これはコーヒーっていう飲み物なんだ」

 机に全員分のコーヒーを並べる。


「では、どうぞ。これがコーヒーだよ」


 この世界初のコーヒー。

 香ばしい香りが部屋中に広がった。

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