インターミッション・ドラッグストアにて
「ちょっとあんた、あのね。店員やってんならそれくらいできて当然でしょうが!」
休日は買い物客で賑わう郊外型のショッピングモールといえど、平日の午前は客足も少なく静かなものだ。だが、その静寂を破る声が響く。ショッピングモール内にあるドラッグストアで、中年女性が日焼け肌の大柄な青年に向かって怒声を浴びせていた。
「いえ、だから俺は違うんですって」
「なーにが違うってのよ。あたしがいつも使ってるシャンプーよシャンプー。髪を洗うヤツ。どこ探しても全然見つからないから、わざわざ風呂場からボトル持ってきたのよ。さっ、同じの出してちょうだい」
青年の胸元にずいと差し出したのは透明なポンプボトルだ。よく見れば中身がほぼ底をついている。
「それ、百均で売ってるボトルじゃないですか。これだけ見せられて同じ商品出せとか、無茶言わないでくださいよ! いや、そうじゃなくて……」
「最近の若い子はすぐ言い訳して逃げようとするんだから」
「ちょっとは俺の話を聞いてくださいよぉー」
騒ぎを聞きつけた店員が、二人のもとにやってきて控えめに声をかける。
「あの、申し訳ございません。揉め事でしたらお店の外で……」
「この店は店員の教育もろくに出来てないのかいっ!」
「だから、俺はこの店の店員じゃないんですってば!」
「えっ?」
よく見ると、日焼け肌の大柄な青年は明るい色のポロシャツにジーンズ姿、一方の店員は店のロゴ入りエプロンを着けて首からスタッフ証を提げている。
一瞬の間をおいて、中年女性はこほんと咳払いをした後に、何食わぬ顔して今度は女性店員に食ってかかった。
「あたしがいつも使ってるシャンプーを出してちょうだい。ほら、このボトルと同じの」
「ですから、中身だけを持ってこられて、同じ商品を出せと言われましても困ります」
「薬局の店員ならそのくらいできるでしょう?」
店員が中年女性の無茶苦茶な言い分にどう対応したものかと困惑していると、先ほど因縁をつけられていた日焼け肌の大柄な青年が、再び二人のところに戻ってきた。
「あの、いいですか?」
「何だい、さっきの兄ちゃんじゃないのさ。あたしに何か文句でもあるっていうのかい?」
「いや、そうじゃなくて。お探しの物って、もしかしてコレ、だったりしません?」
そう言いながら差し出したのは、とある銘柄の詰め替え用パックだった。
「これじゃないわよ……、いや待って、これだわ」
デザインこそ微妙に変わっていたが、どうやら中年女性が探していたものと同じ商品名だったようだ。
「そういえばこちらの商品、つい一か月前にパッケージがリニューアルされたんですよ」
「んもぉ紛らわしいわねえ、どうりで見つからないと思ったのよぉ。じゃ、これ買うわ。会計してちょうだい」
青年から商品をふんだくるようにしてカゴに入れると、中年女性はそのまま会計レジに向かってずかずかと歩いて行ってしまった。
「大変申し訳ありませんでした。あの……、災難でしたね」
「よくあることです……」
残された女性店員と青年は、顔を見合わせて苦笑した。
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