「神がログアウトする」という発想が、まずとても面白かったです。
奇跡が止まり、祈りが届かなくなり、天使たちが空中でエラーを吐く。
この導入だけでも一気に引き込まれるのですが、そこから物語が単なる終末や宗教的な混乱に向かわず、「では、人類は善意をどう処理するのか」という方向へ進んでいくのが、とてもMOKA様らしい鋭さだと思いました。
神が見ているかもしれない。
戻ってきたときに査定されるかもしれない。
その不安によって、人々の善行が少しずつ変質していく流れが印象的でした。
最初は誰かを助ける行為だったはずのものが、記録され、比較され、証明されるものになっていく。
善意が善意のままではいられず、スコアやログや効率に置き換えられていく怖さが、淡々とした文章の中からじわじわ伝わってきます。
特に、「誰も悪意でやっていない」のに、世界全体が息苦しくなっていく描き方が見事でした。
人を助けたい気持ちさえ、評価や監査の対象になった瞬間に、どこか暴力的なものへ変わってしまう。その不気味さがとてもよかったです。
後編では、善行がさらに整理され、自動化され、世界がきれいに整っていきます。
争いが減り、無駄がなくなり、すべてが正しく処理されていく。けれど、その正しさの中で、人間らしい迷いや祈りや揺らぎが失われていくようで、読み終えたあとに静かな寒気が残りました。
神、AI、善意、査定、最適化。
大きなテーマを扱いながらも、ログや通知、数値の積み重ねで世界を見せていく文章がとても巧みです。説明で押し切るのではなく、読者に「この世界、怖い」と自然に思わせる力があります。
神がいなくなった世界で、人間は本当に善くなったのか。
それとも、善く見えるように最適化されただけなのか。
そんな問いが、短い物語の中に鋭く残る作品でした。