【回顧録.或る亡霊の記憶】

【回想.五十六億七千万回目の回想】

 十七歳の秋、彼女は殺された。


 秋晴れの吸い込まれそうな青い空。

 午後の遅い時間。

 皆が下校した後のことだった。


 生きていた頃は十年が果てしのない長い時間に感じたものだ。

 たった一年後のことを想像することすら難しかった。


 毎日が楽しかった。

 毎日が充実していた。


 だが今は。

 お腹が、減って仕方がない。

 喉の奥が、焼けるように空っぽだ。


 そんな軽い頭蓋骨ひとつだけになった身体の、元・女子生徒は考える。


『私がもう少しだけ、優しく生きていたなら』


 と。

 そのために何が出来たのか、を。


 繰り返し繰り返し、何度も考えた。


 幸い時間だけは、たくさんある。

 生きているモノには、到底理解も出来ないほどの数、延々と繰り返される傍観の人生が。


 そう、彼女は輪廻転生の輪から外された。

 傍観者となった。

 ただそれだけのこと。


 引き換えに、永劫の飢えの苦しみとも戦わなくてはならなくなったが。

 彼女は苦しみを、耐えて耐えて耐え抜いた。


 永遠に繰り返される時間は、優しく、無慈悲に包み込んでくれた。


 ――考えよ。想え。思い出せ。お前がどうすべきだったかを。


 五十六億七千万回の孤独は、寂しく、辛く、苦しく、心地よく、懐かしく、切なかった。


 思い出すのは、クラスメイトの顔。

 カースト上位の子も、自分と同じくらいの子も、カースト下位の子も。


 みんな、輝いていた。

 生き生きとしていた。


 自分なんか目じゃないくらいに。

 綺羅びやかに、生きていた。


 彼女は願う。


 ――彼女らに、会いたい。

 会って、伝えたい。


 生きて。最期まで希望を捨てずに生きて……と。


 そして、或る言葉が唐突に頭に浮かぶ。


『私がもう少しだけ、優しく生きていたなら。何かが。何かが変わっていたのかもしれない』


 ――そうだ、思い出した。

 私は伝えたいんだ。

 変えたかったんだ。


 そう、確かあれは――。

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