第4話 群馬の風、あるいは沈黙の夜
スバルのラインを外れた日、太田の街を吹き抜ける空っ風は、どこまでも冷酷だった。
藤堂崇史は、ハローワークの帰り道、イヤホンから流れてきた「前向きなJ-POP」を叩きつけるように停止させた。
「明日があるさ、なんて……明日があるから苦しいんだよ」
吐き捨てた言葉は、誰に届くこともなく夜の闇に吸い込まれた。
リーマンショックの時もそうだった。震災の時もそうだった。世の中が「絆」や「希望」を叫べば叫ぶほど、その輪から取り残された自分だけが、音のない真空地帯に放り出されたような感覚に陥る。
高虎の沈黙:崇史は再び、ボロボロになった高虎の本を開く。高虎が何度も主君を変え、浪人生活を送っていた時期。彼は決して「前向きな歌」を歌って自分を鼓舞したわけではない。ただ、食うために、生きるために、冷徹に「次の一手」を計算し、沈黙の中で牙を研いでいた。
感情の「損切り」:無理にポジティブになる必要はない。崇史はそう自分に言い聞かせた。絶望は絶望として、そこにある。今はただ、高虎が戦場で傷を癒やすように、自分を甘やかさず、かといって責めもせず、淡々と次の「戦場」を探す。
滋賀への「転進」:スバルでの挫折を抱えたまま、彼は滋賀の浅井工業へと辿り着いた。ここは群馬のような華やかさはないかもしれない。だが、琵琶湖の底のように静かで、深い場所だ。
挽回への「静かな」助走
崇史は、浅井工業の寮の窓から、遠くの街灯を眺めた。
新NISAの広告も、震災のニュースも、今は遠い雑音に聞こえる。
「歌なんていらない。俺に必要なのは、確実な『足場』だ」
高虎が、崩れやすい土地にこそ深い石垣を築いたように、崇史もまた、この「お先真っ暗」な状況を逆手に取り、誰にも見えない場所で自分だけの「城」を構想し始める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます