異世界で追放されたけど、神々の加護で最強になった俺は今日も知らぬ間に世界を救っている

@eringeek

第1話 追放された勇者パーティーの裏切り

 ルークの耳に、冷たい声が突き刺さった。

「お前はもう要らない。今日限りでパーティーを抜けてもらう」

 指揮者のように勇者カイルが言い放つと、仲間たちは沈黙した。

 静かな焚き火のはぜる音が、夜の森の緊張を際立たせる。


 ルークは一瞬、冗談だと思った。だが誰の顔にも笑みはない。

「……どういう意味ですか?」

「そのままの意味だよ」カイルは軽蔑を隠そうともせずに言った。「お前は回復魔法も、攻撃も使えない。荷物持ち程度の役にしか立っていない」

「いや、でも――」

「もういい」

 魔法使いのミリアが冷たい視線を投げる。「私たちは『魔王討伐』の使命を負っているの。無能を抱えてる暇はないのよ」


 ルークは胸の奥が焼けるように熱くなった。

 一緒に旅を始めた頃は、皆で食事を分け合い、夜には馬鹿話をして笑い合っていた。だが魔王城への道のりが険しくなり、魔物との戦闘が激化するにつれ、彼の存在は軽んじられていった。

 援護魔法は覚えたものの微弱すぎて効果が薄く、回復薬の調合もミスばかり。

 自分だけが足を引っ張っていると感じる日々だった。


「わかりました……。今までありがとうございました」

 それだけ言って、彼は腰のポーチを外した。中には共に稼いだ報酬が少しだけ入っている。

 差し出そうとしたが、カイルは手を振った。

「いらない。そのくらいは持ってけ。最後に少しでも役に立ったと錯覚できるなら、それでいい」


 その言葉は、鞭より痛かった。

 ルークは背を向け、焚き火の明かりから離れた。

 夜風が冷たく肌を刺す。ひとり歩く音だけが、やけに大きく響いた。


 数時間後、東の空が白み始める頃、彼は小高い丘の上に立っていた。

 見渡す限りの荒野には、かつて人が住んでいた形跡だけが残る。崩れた石垣、朽ちた井戸、風化した祠。

 ルークは祠の前で立ち止まり、思わずつぶやいた。

「本当に、俺って、何もできなかったな……」


 指先で祠の欠けた部分に手を触れる。すると微かに光が漏れた。

 眩しさに目を細めたその瞬間、空気が揺らぎ、耳鳴りのような高音が周囲を包んだ。


『――哀れなる子よ。なぜ涙を流す』

 柔らかな声が頭の中に響く。ルークは驚いてあたりを見回したが、誰もいない。

「誰だ……?」

 問いかけに再び光が強くなり、祠の前に女性の姿が現れた。

 白いドレスに金の輪を戴くその姿は、まさに神話の女神そのもの。


『私は癒しの女神、セレナ。この地に忘れ去られた祠に祈りを捧げてくれた者は久しい』

「女神……? そんな、俺はただ……」

『お主の心の声が届いたのだ。絶望と誠実は、神々の耳に届く』


 セレナは微笑み、彼の胸に手を触れた。あたたかな光が彼の全身を包み込む。

『ルークよ。お主にはすべての神の加護を授けよう。癒し、炎、氷、雷、風、そして運命を織る力。お主の心のままに、それらは働こう』

「そんな……俺にそんな力を?」

『お主はまだ知らぬ。だが近い未来、この世界の命運を背負うことになるであろう。恐れず進め、正しき心のままに』


 光が収まると、セレナの姿は消えていた。

 ルークは呆然とした。だが、体の奥から溢れ出るような活力を感じる。

 視界が鮮やかに冴え、耳に風の流れ、遠くの魔物の息づかいまで聞こえる。


 ふと草むらが揺れた。

 見ると、黒い外殻を持つ大型の狼型魔物――シャドウウルフが飛びかかってくる。

 咄嗟に身を翻した瞬間、ルークの右手から白い閃光が走った。

 轟音とともに、魔物は燃え尽きて跡形もなく消えた。


「……え?」

 自分が何をしたのか理解できない。

 手のひらからまだ微かな熱が漂う。だが、息一つ乱れていなかった。


 恐る恐る魔物のいた場所へ近寄る。地面に焦げた跡が広がり、その周囲の草が蒸気を上げている。

「さっきのは……魔法? 俺が?」

 信じ難かった。これまで炎を出そうとして、指先から煙しか出なかったのに。


 すると、頭の奥でまた声が響く。

『お主は神の祝福を受けた者。願いのままに力は形を変える』

 セレナの声だった。

 だが、すぐに消え、静寂だけが残る。


 その静けさの中、ルークはふと笑ってしまった。

「……俺、追放されたんじゃなくて、解放されたのかもしれないな」


 かつての仲間はもういない。頼る者もいない。

 だが、胸の奥では奇妙な高揚感が広がっていた。

 この世界のどこかに、自分を必要としてくれる場所がある気がした。


 太陽が昇り、荒野を黄金色に染める。

 ルークは新しい一歩を踏み出した。

 知らぬまま、彼の背中から薄い光の羽が一瞬だけ現れ、風に溶けて消えた。

 やがて歴史の記録家たちは、この時を“新たなる英雄譚の始まり”と呼ぶことになる。

 だが、当の本人はまだ、自分が何をしたのかさえ理解していなかった。


(第1話 終)

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