第3話 粘液海域
白亜紀後期、現代でいうアラビア海沖で、巨大な怪獣が平泳ぎのような動きをしながら海を泳いでいた。その背中は粘ついており、海棲爬虫類や魚類、アンモナイト類が張り付いて身動きが取れなくなっていた。それをライギョが最高速度で泳ぎながら追う。この怪獣は全身がネバネバとした特殊な分泌物で覆われており、強力な粘着力を誇る。一度くっついてしまうと身動きが取れなくなってしまう。また、この分泌液は地上の海洋生物に有害な物質を含んでおり、泳ぐだけでも海が汚染される。ライギョはこの怪獣ーネバンイカンと呼んでおこうーを排除すべく追跡していた。ライギョはネバンイカンを浅瀬まで追い詰める。追い詰められたネバンイカンは立ち上がる。傴僂の骨貼った体に肌色のてらてらと光る鱗のない肌、全身から滴り落ちる緑色の粘液、小さな頭部にギョロリとした大きな目に細かい牙が並んだ口の深海魚のような顔、水かきのついた腕は脚よりも発達していて、背中と頭部には薄緑色のギザギザした鰭がある。
ギュワワワワワワワワ‥
ネバンイカンは不気味な声を上げながらしばらくライギョの顔を見つめる。
ギュワッ!
そしてカエルのように跳ね、ライギョにしがみついて押し倒す。そしてライギョの首を絞めようとする。ライギョは咄嗟にネバンイカンの腕を掴んで攻撃を防ごうとするが、粘液のせいで掴んだ腕を離すことができない。ライギョはネバンイカンから離れようにも離れられなくなってしまった。ネバンイカンの体からとめどなく流れる粘液がライギョの体に滴り落ちる。
ギュゲェェェェェェ‥
ドバドバドバドバ!
ネバンイカンは喉の奥から搾り出すような声を上げると、口から大量の粘液を嘔吐するかのように吐き出した。ライギョは顔に大量の粘液を浴び、溺れたような状態になって苦しそうに喘ぐ。ライギョは海上を転げ回りながらネバンイカンを引き剥がそうとする。それが無理だと分かったライギョは自らの体が傷つくことも顧みずに、ネバンイカンの腕から無理やり自分の手のひらを剥がした。強力な粘着力で張り付いている部分を無理に引き剥がしたので、ライギョの手のひらの鱗や皮膚組織が剥がれてしまう。
ギュゲッ!
ネバンイカンは自分の最大の武器を引き剥がされたことに驚く。そして
ギュケケケケケケケケケケ!
笑い声のような鳴き声を上げながら顔の両端を粘液のついた手のひらで引っ張って威嚇すると、水中に潜る。ライギョの海に飛び込み、激しい水中戦が始まった。海中で激しく取っ組みあう両者。ネバンイカンは粘ついた手のひらでライギョの鱗を剥がす。そしてその背中に噛みつき、肉を齧りとった。ライギョはネバンイカンの腕に噛みついて激しく振り回す。そしてネバンイカンの右腕を食いちぎることに成功した。ライギョは腕を失い大きなダメージを負ったネバンイカンの胴体に噛みつき、その体を噛み砕いた。粘液で守られた肌も、その強力な咬合力の前には無意味だった。ライギョはネバンイカンの四肢をその腕力で千切り、もう一本の腕を口に咥えて海面に浮上した。腕にはネバンイカンの胴体だけになった死骸があった。ライギョはネバンイカンの体に張り付いたまだ息のある生き物たちを傷つけないようにそっと少しずつ引き剥がし、元気になるまで海辺の洞穴で休ませ、怪我を負ったものには治癒力のある海藻を巻きつけた。そして自らの重傷にも海藻を巻き付けると、洞穴に崩れ落ちるように座り込んで眠りにつくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます