第38話 ハプニング




 バトルロワイアルが終わってから数時間経った頃、俺は樟田の研究室に監禁されていた。最初に監禁されたときとは違い、今の俺には拘束などどこにもなかった。


 研究室の中は、肺の奥まで冷えるような重苦しい沈黙と、機械的な排熱音だけが支配している。


 窓一つない空間は、どこまでも深い薄暗がりに包まれていた。天井の隅で明滅を繰り返す蛍光灯はとうに寿命を迎えているのか、部屋の全貌を映し出すことを拒んでいるかのようだ。


 唯一の光源は、俺が座らされている古びたパイプ椅子の真上にある、剥き出しの電球だけだった。


 「樟田、あんた所長なんだろ?いい加減この部屋どうにかしろよ。辛気臭いぞ」


 「えぇ~、結構雰囲気あって好きなのに……」


 俺の愚痴を受け流し周りを一瞥し目を輝かせている。しかし思い出したようにこちらに視線を戻す。


 「そんなことより……君、いい加減見してよ。バトロワで大活躍したって報告来てるんだよ。えーと、『バトロワに参加した400名の内100名の殺害疑惑、また特別研究対象〖等価交換〗の殺害疑惑』だって。これは事実なんだね」


 すべてを見透かすような物言いは、相変わらず厄介なこいつの能力のせいだろう。


 「おまけに天野花音の裏切り……そのせいで計画の一部がパァだ。困ったものだよ。でも………」


 不敵な笑みを深く刻み、俺を見下ろす。


 「思ったより成長が速い!いいよ!これなら台無しになった計画も必要ない!それで、見せてくれ!君の!力を!」


 興奮気味に話す樟田と裏腹に、俺の心は穏やかなものだった。正直樟田がこうなると面倒くさいのだ。


 「見せろって言っても……アニマ技術と能力の組み合わせ、能力と能力を混ぜる『骸の編み糸』はもう見せたろ」


 「じゃあ能力の組み合わせ全通り―――」


 「馬っ鹿じゃねぇの!何日掛けるつもりだ!いい加減帰る!」


 席を立ち301号室に戻ろうとした時、樟田に止められた。


 「いいの?この眼に見透かせないものはない。見えるよ、喧嘩したんだね。それで戻ってどうなると思う?」


 「うっ………」


 (わ、忘れてた……)


 その場で少し考え無謀だと思いもう一度席に座った。


 「よろしい、では出来る限り組み合わせを見せてくれ。それらをどう使いどう活かすか考えてみるよ」


 そこから三日かけて能力の組み合わせを見したり試したりした。分かっていたことだが、こいつ頭おかしいだろ……!不眠不休でやらせやがった。おまけに自分も寝ずに能力の組み合わせを観察し、終わってからも神に対抗できる可能性のあるものを考えていた。ちなみに俺は半日くらい冷たい床で気絶するように寝ていた。


 「……………あ?」


 二度寝からようやく目を覚ました俺は上半身だけ起き上がり、周りを見渡す。案の定樟田はまだ起きていた。こいつ素で能力者なのかもしれない、そう思ってしまう。


 「あ、起きたかい?顔色を見るに……あまり疲れは取れていないようだね。君が寝ている間に部屋を用意しておいたんだ。ここを出て右に曲がって三つ目の部屋だ」


 「……………ベットは?」


 「あるよ」


 「お疲れさまでした!失礼します!」


 研究室を出て言われた通りの場所に向かうため曲がり角を走っているとゴツンの何かとぶつかった。その際俺だけこけてしまった。


 「すまん、大丈夫か?」


 「悪い、助か―――」


 差し伸べられた手。反射的にそれを握り、顔を上げた瞬間――俺の思考は、氷点下まで凍りついた。


 「雷門……………」


そこには、あの夜裏切った仲間が佇んでいた。



 


 




 


 




 


 


 


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