美晴が町はずれの神社から迷い込んだのは、不思議な場所でした。そこには……。
とても素敵な小説でした。是非、皆様にご紹介させて頂きたいと思います。
現在、ラノベでは異世界モノが強いですよね。勿論、それ以外の作品、ラブコメや現代モノもあります。でもこのジャンル分けってどうなのと思う時もあります。
というのは海外で翻訳されて読まれている日本文学は、どんなジャンルが人気があるか知っていますか? 長く「ハルキ・ムラカミ」一強の時代が続いてましたが、現在は少し違う動きもあります。
その中で4大人気ジャンルというのを、翻訳家であり文芸評論家でもある鴻巣 友季子氏が教えてくれておりますが、
「犯罪サスペンス」「フェミニズム」「ディストピア」「ヒーリングフィクション」らしいのです。
とはいえ、額面通りのステレオタイプで考えず、「そういう解釈が出来る作品」という観点が重要です。例えば「ディストピア」ジャンルに村田沙邪香先生の「コンビニ人間」が入っていたりするので、誤解無きように頭を柔らかくして考えて下さい(笑)。
さて、その中で私が注目したのが「ヒーリングフィクション」というジャンルで、端的に言えば「癒し系小説」です。キーワードは「リレータブル」、つまり経験に基づいた共感性です。例をあげますと映画にもなりました「コーヒーが冷めないうちに」川口俊和先生作などが高評価です。
で、僕はそういう風に現代の日本の小説も額面通りのジャンル分けでなく、「エモーショナルなジャンル分け」をするべき時代に来ていると思っています。
前置きが長くなりましたが、本作のご紹介です(すいません)。
僕は拝読させて頂いた直後に「すごく優しい気持ち」になりました。その内容には触れませんが、単純に「現代ファンタジー」と呼んでしまわずに「ヒーリングフィクション」作品ですと僕は紹介したいです。
この様な良作をカクヨムという世界で埋もれさせない事、それには「読者がどの様に感じるのか」という部分に立ったジャンル分けをして欲しいのです。
物語は冒頭に書きました美晴という少女のお話になります。その不思議な場所に行く事、そこで彼女は何を見て、何を知り、どう感じるのか、様々な心の変遷を簡潔な表現でいやらしくならず、さらりと筆者である春渡夏歩様が提示してくれています。
お勧め致します。
僕と同じくこちらを読まれた皆様が「優しい気持ち」になられる事を願っております。
皆様、宜しくお願い致します( ;∀;)
【レビューコンテスト応募】
家族の歴史を調べる宿題をきっかけに、美晴ちゃんは、お母さんが長いあいだ口を閉ざしてきた過去へ近づいていくことになるんよ。
町外れの神社、奥へ続く石段、古びた鳥居。その先には、昔話から抜け出してきたような、見知らぬ世界が広がってる。そこにおる鬼たちは、ただ恐ろしい存在やない。祭りを楽しみ、食卓を囲み、誰かを案じながら暮らす、人と変わらん心を持った者たちなんよ。
美晴ちゃんの目を通して描かれる異界は、不思議でありながら、どこか懐かしい。にぎやかな祭りや食べ物の匂い、初めて出会う者どうしのやり取りが、物語へ入りやすい道を作ってくれてる。
その一方で、母が語ろうとせえへん家族の過去や、周囲の何げない言葉が残す痛みも、少しずつ姿を見せてくる。児童文学のような読みやすさの中に、家族の境目と、自分の居場所を知ろうとする少女の願いが流れる現代ファンタジーなんよ。
【樋口先生の推薦文――井戸の底】
わたしがこの物語に心を引かれたのは、鬼の郷の不思議さよりも、そこに暮らす者たちが胸の奥へしまってきた願いでした。
家族であっても、すべてを語り合えるとは限りません。守るために黙る者がいて、その沈黙によって傷つく者もいます。愛情と痛みは別々に訪れるのではなく、同じ人の胸の内に宿ることがあります。
美晴は、父親について何も知らないまま育ってきた少女です。周囲の人々は、父のいない暮らしを勝手に寂しいものと決めつけます。しかし本人にとっては、それが生まれたときからの日常でした。知らないことそのものより、尋ねても答えてもらえないことの方が、しだいに彼女の心を曇らせていきます。
この作品は、子どもの「知りたい」という願いを、単なる好奇心として扱いません。自分はどこから来たのか。なぜ母は口を閉ざすのか。家族とは、誰を指す言葉なのか。その問いはやがて、人が自らの居場所をどのように受け取るかという、静かで切実な問題へ広がっていきます。
母・美空の沈黙にも、長い暮らしの重みがあります。語らないことは、必ずしも冷たさではありません。語れば失われるものがあり、守ろうとすれば、かえって大切な相手を傷つけてしまう。その矛盾を抱えたまま仕事をし、娘を育て、日常を守り続ける姿には、派手な悲劇とは異なる、生活者の痛みがあります。
物語の中では、鬼と人間が隔てられています。けれど、読み進めるほどに、その境目は揺らいでいきます。人を怖れさせる姿を持つ者が、誰より穏やかな願いを抱くこともある。普通に見える人の心に、噂や悪意が巣食うこともあるのです。
白い勾玉や紫陽花は、その境界を越えて残る記憶の形です。手渡された物は、単なる小道具ではありません。離れた者どうしが、同じ時間を忘れずにいるための、慎ましい証しとなっています。
この作品は、大声で悲しみを訴えません。むしろ、言えなかった言葉、触れられなかった手、帰ることのできない場所が、読後に少しずつ胸へ沈んできます。
家族の秘密を扱いながら、最後に残るのは真実そのものの驚きではありません。すぐには理解できない相手の選択を、それでも理解しようとする心です。
人の弱さを裁くのではなく、その弱さの奥にも守ろうとしたものがあったのだと、静かに見つめたい方へ薦めたい物語です。
【ユキナの推薦メッセージ】
読み終えたあとに残るんは、大きな驚きより、離れていても消えへん家族のぬくもりやと思う。
誰かを守ろうとして言葉を飲み込んだことがある人や、聞きたいのに聞けへんまま胸へしまった思いがある人には、この物語の沈黙が深く届くはずやね。苦しさを描きながらも、人の弱さを責めるだけで終わらへんところにも、やさしい強さがあるんよ。
童話や伝承の空気が好きな人、家族の形を静かに見つめる物語を読みたい人に、ぜひこの遠い約束の行方を見届けてほしいな。
ユキナと樋口先生(井戸の底 ver.)
※ユキナおよび樋口先生は、GPT-5.6による仮想キャラクターです。
なお、自主企画の参加履歴を「読む承諾」の確認として扱っています。
作者ご自身が紹介されているように、和の御伽噺で語る家族の物語です。主人公の美晴の家族はとにかく家族愛に溢れています。評者のような捻くれ者には眩しすぎるくらい。家族愛を存分に感じられることがおすすめポイントの1つめ。次に構造が巧みです。美晴の母親は幼少期に神隠しに遭い、18歳のときに身籠って帰ってきました。普通に考えて犯罪に巻き込まれたか、悪い男に騙されたか。作中ではもう少し御伽噺的に「鬼の取り替え子だ」と噂されています。ところが真相はといえば……。多くは語りませんが全て美しく反転します。この物語の構造設計は見事そのもので、おすすめポイントの二つ目です。安心して読める、という形容がぴったりのお話でした。
主人公の美晴ちゃんが、学校から出された宿題をきっかけに、日常の一歩外にある冒険に踏み出すお話です。
そこにはお母さんがずっと抱えてきた秘密、そして自分自身の大きな秘密が待っていて…。
少女の成長譚だけでなく、そこに住む人々が古くから抱えてきたとある傷も、物語に深みを与えています。
美晴ちゃんの存在が、いずれその傷を癒し塞いでくれるのではないか…そんな希望を感じさせるラスト。
落ち着いた語りの中に、作者様の祈りが込められた素敵な物語です。
終盤のお祭りのシーンは、読んでいてワクワクする彩りに溢れ、読者を一緒にすぐ隣の見えない世界へと誘ってくれます。
ぜひご一読ください。