筆者が高校を中退し、家を追い出され、都内のアパートで自活していた頃のお話。
筆者は麻布のスーパーでアルバイトをしていた。
麻布という土地柄、歌手や女優が客として訪れることもある。
けれど当時の筆者の目を引いたのは、そうした名のある人々ではなく、店の内側にいる人たちだった。
薬品売場の素敵な女性社員たち、可愛らしい女性従業員、そして行きつけの喫茶店で働く女優の卵の女の子。
そうした存在が、ひとりで生きる若き筆者の日々を、優しく、柔らかく支えていたのだろう。
ある日、筆者は大ファンだった女優を見かける。
その高揚はどれほど大きかったことだろう。
けれど本作は、そこを思い出の核にしない。
むしろ、あの頃の名もなき日々のなかに確かに存在していた彼女たちへと、静かに視線を戻していく。
有名人との遭遇という華やかな出来事よりも、何気ない笑顔や会話のほうが、その後の人生に温もりをくれる。
そんなことをしみじみと思わせてくれるエッセイでした。
ぜひご一読ください。