第8話

 私は小説を書き始めた。言語化するのが下手だけれど、内に抱え込んでいる気持ちを発散するには、私には小説を書く以外に手段はないと思っている。小説を書くことで誰かと繋がりたいなぁと思う。いまのところまったく繋がれてはいないし、期待しないと決めておきながら反応を気にしてしまう。

 私が小説を書いていると、繭子が話しかけてきた。

「言語化が上手くいかないって嘆いてたけど、どうなの。その後の調子は」

「理想と現実を織り交ぜたいい感じの文章ってどうやって書けばいいわけ?」

 私は手を動かしながら言う。繭子は、なにそれ、と私の画面を覗き込んでくる。

「お姉ちゃんの思うことを書いたらいいんじゃない」

 私の思うこと。いろいろと妄想はするけれど、言葉にするほど大したことじゃない。 

 ラインで言われた、自分で書いた言葉がそれを読んだ相手にどう思われるか、それが自分だったら何を思うかを、文章を読み返しながら考えてみる。よくわからない。抽象的すぎるからだろうか。

 そろそろ桜が咲く。花見に行けるだろうか。

 いつも小説を書いていて、ときどき立ち止まって書かない期間があって、また書き始める。いつか、自分が書いた小説が評価されて映画化されたらいいな、と思うけど、それは夢のまた夢でしかない。

 キーボードを叩くたびに、文字が出現する。真っ白だった画面が、文字で埋め尽くされていく。本を開くと、その世界に夢中になって、主人公の人生を追体験する。図書室で、図書館で、自分の部屋で、本を開いて、いろんな世界を見てきた。和菓子の店で働く店員の話だったり、架空の人類が滅びて自分だけが生き残った世界で生きる物語もあった。表紙の海の写真が綺麗で、その本が好きだったりした。

 私は、今までどれぐらいの本を読んできただろうか。図書館で、四時間四百ページ読んで、座りすぎてお尻が痛くなったこともある。当時私は高校生で、周りは皆、勉強していた。好きな作家の本を棚からとって順に読んでいくのが好きだった。

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