Data 04. 覚めかけていく夢



 ……今日の特別ミッションは畑を荒らすスライムの討伐か。


<ようやく、繋がりました>


「……君は?」


 俺は姿無き声に応答した。

 数秒後おぼろげな蜃気楼のように突然現れた女性。

 まどろみの中で顔も見えないその女性が、俺の手に触れようとした。


 しかし、その手は交じり合う事もなく彼女は膝から崩れ落ちた。


 彼女はいったい……。


<……>


「大丈夫、ですか……?」


<私は、いつまでも貴方を覚えています……>


 俺は……何かを忘れている……?



――――――


Data 04. 覚めかけていく夢


――――――



「今日のはしっかり復習しとけよ~。 来週の小テストに出すからな」


「そりゃないっすよ~! 海火ミホちゃん!」「今日もテストだったじゃん!」


「しっかり覚えて復習する、これが一番大事なんだ」


「なにかを……わすれている……」


「ほう……起きろ! 入鹿イリシカ 飛鳥馬アスマ!」



――――――



 へ……?


「寝ぼけて早速授業を忘れるとは、良い度胸だな」


 寝ていたのか。

 今の感覚は……いつも見ている夢ではない。

 生々しい息遣いの感覚もなく。

 その場に確かに自分が在るという感覚もない。


 ただの……夢。

 でも……すごく、胸の奥が悲しくなった。

 そんな気にさせる夢だった。


「罰として放課後に職員室へ来い」


「は、はい。 すみません」


 変に目立ってしまったようだ。

 雰囲気的には悪口ではないだろうけど、クラス中が何か俺に対して小声で話している。


 そして、終業の合図が校内へと響き俺は職員室へと向かっていた。


「きたか、指導室へ行こう」


「はい」


 【久遠クオン 海火ミホ】先生。

 規律正しい髪を一房にまとめ上げた俺のクラスの担任教師。

 スラっとした体形で古風な振る舞いが板につく凛とした女性教師だ。


「気付いていると思うが、罰として呼んだわけではない」


「……」


「最近どうだ? 足の調子は」


 そして、この人は馬術部の顧問でもある。


「今は……リハビリが楽しくなってきたんです」


 CSOのテストプレイを始めて1週間程。

 足は……心なしか以前より動くようになってきた気がする。

 これも奈瑠美さんのおかげだ。


 よくここで生徒を指導している海火ミホ先生の書類作業を手伝いながら、俺は軽い近況報告をした。


「そうか、最近どこか活気の良い表情だからな。 少し氣になったんだ」


「先生が気に病む必要はないですよ」


「そういうワケにもいかないさ。 あれは私の管理が甘かったせいだ」


 俺の足の怪我は、こんな風に自分の監督不行き届きだと彼女は責任を感じているんだ。

 この人のせいではないというのに、律儀な女性だ。


「今日もリハビリか?」


「まぁ……今日は暇ですよ。 先生も大変でしょ?」


 リハビリ……といってもCSOへログインするだけだし。

 Mariaさんとは今日も一緒にプレイする約束をしているけど、夕方か夜にログインすれば問題ないと思う。


「ふ、助かる」


 そして、世間話をしながらも少し書類作業を手伝い……。

 気付けば暮れた空の雲間からカラスの声が響き渡っていた。


「助かったぞ、飛鳥馬アスマ。 部活にはいつでもこい」


「はい、失礼します」


 荷物、教室に置きっぱなしだったな。

 クラスに戻り扉を開く。

 窓際にある自分の席へと目を向ければ、一人の女生徒がそこに座っていた。


「あ、きたきた!」


 誰か来たのか?

 俺は後ろへと振り返った。

 誰もいないな。


「君以外誰もいないよ! こっちこっち!」


宇佐美ウサミさんは何か用事だったの?」


 この女生徒は宇佐美ウサミ 真理マリさん。

 制服をラフに着こなし、明るすぎない染髪と毛先のウェーブが細やかな遊び心を表現している。

 人を心の底から照らしてくれるような明るさがあり……。

 なんていうか、少しギャルっぽい今どきの女の子だ。


「君を待ってたの! 思ったより長くて待ちくたびれちったよ」


「俺を? 何かあった?」


「何かなきゃ話しちゃいけないの?」


「いや……」


 彼女は時折、俺を構ってくる。

 俺はそれをのらりくらりと躱しているが……。

 こうして、ときどき隙を付かれてしまう。


「一緒に帰ろ! 同じ電車でしょ?」


 宇佐美さんは前のめりになって、距離を詰めてくる。


「いや……」


「いやは禁止ね!」


「あぁ、わかったよ」


 他愛もない話をしながら、駅への道のりを進んでいく。

 彼女にとって、あまり俺といない方が良いはずなんだけどな。


「君さぁ~。 いい加減私と普通に話してよ」


「普通に話してるけど」


「じゃなくて! 避けないでよってこと!」


 ……俺はあまり良い噂は流れていない。


「飛鳥馬くんのおかげで救われたって子達もいるんだよ!」


「でも、やっぱり俺といない方が良いよ」


 俺は部活中に馬から転落した。

 それは俺を疎ましく思い馬を驚かせた不良生徒によってもたらされたもの。


 俺はそいつのいじめを止めようとして、正義感の強い宇佐美さんは勇気を出してただ一言【良くないよ】と俺に同調した。

 それが発端となったんだろう。

 学内で幅を利かせていた不良生徒達は、俺に目を付けて嫌がらせが始まった。


 そして……動じない俺にしびれを切らしたのか、転落事故の凶行に及んだという訳だ。

 馬を驚かせて自分が直接手を汚さずに、恨みを下そうとしたのかもしれない。


 そいつは停学となったが……俺はおかしな噂が流され周囲から人が離れていった。

 宇佐美さんや、部活仲間の一人は変わらずに接してくれるが……。

 やはり、彼らに迷惑をかけないためにも俺といない方が良いだろう。


「君のあの噂だって嘘なんでしょ?」


 馬から転落したわけだが、それからこんな噂が流されたんだ。


 馬から落ちたがそいつをボコボコにして病院送りにした。

 親が権力者で停学させた。

 骨折しても涼しい顔をしていた化け物。


 そんな根も葉もない噂話から、俺は腫物扱いされている。


「全部嘘だよ」


「だよね! 皆に話してるけどさ、信じてもらえないんだ」


 そう、全部嘘。

 噂は所詮、噂でしかないと……友人も弁明してくれたが、その結果も明るくなることはなく。

 気付けば俺は、クラスから、学校から浮いた存在となっていた。


「皆きっと、自分が標的になるのが怖いんだよ」


 たぶん、噂を信じているわけじゃない。

 俺と一緒にいれば、次の標的は自分になるかもしれない。

 きっとそれが怖いんだ。


 電車に揺られて、二十分程。

 気付けば家の最寄り駅についていた。


「じゃ、俺はここで……宇佐美さん、ありがとう」


「ばいばい、明日も話そうね!」


 ……初めて言えた。

 気にかけてくれる彼女に、お礼の言葉を。


 帰ってCSOの続きをやろう。

 今日は爽やかな気持ちでログインできそうだ。



――――――


~CSO交流掲示板~


【謎】セーフティネットを破る存在


1:最近のCSOがなんか怪しい


2:どういうこと?


3:CSOって今までのMMOと同じく、違法行為はできないだろ?

 そのルールを破る存在がいたって噂


4:なにそれ、テストサーバーだからバグなんじゃないの?


5:本来、俺たちはNPCに触ることはできないだろ?

 触ってるやつを見たっていう話


 他にも、プレイヤー同士の過剰接触

 死んだ魔物の収納

 謎の凄腕プレイヤーがチートを使っている

 とかな


6:私も聞いたことある!


7:俺もあるな……。

 得体のしれない何かがCSOに入り込んでいるという噂……。

 そして最近、近所の猫達に威嚇されるんだよな。

 お祓いにいったほうがいいかな?


8: >>7 お前は風呂に入れ


9:まぁともかく、俺たちも気を付けようや

 ゲーム内はともかく、リアルに影響出たら危ないだろ?



(凄腕プレイヤー……Irukaくんはチートじゃないし。 やっぱり噂だと思うけど……)


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