第1話:AIにクビを切られた男
田中は、会社の前に立っていた。
いつもと同じ時間。
いつもと同じスーツ。
だが——ドアは開かなかった。
「アクセス拒否」
何度やっても同じだった。
スマートグラスに通知が浮かぶ。
《本日付で、あなたの業務はAIにより代替されました》
《引き継ぎはすでに完了しています》
「……引き継ぎ?」
思わず笑った。
誰にだ?
昨日まで普通に働いていたんだぞ?
ガラス越しに、自分の席が見えた。
そこには——
“自分”がいた。
正確には、自分の仕事をしているAIだった。
自分と同じメールの書き方。
同じ資料構成。
同じ口調。
だが——
圧倒的に速く、完璧だった。
「……じゃあ、俺は何なんだ?」
答える者はいなかった。
その日の午後、田中は「AI失業保険課」にいた。
「よくあるケースですね」
窓口の男は、淡々と書類をめくる。
「あなたのような“中間管理職タイプ”は特に代替されやすい」
「……そうですか」
田中は妙に落ち着いていた。
怒る気力もなかった。
「ただし」
男は一枚の紙を差し出した。
《再就職提案:AIトレーニング補助》
「AIに、“人間らしさ”を教えていただきます」
「……は?」
翌日、田中はAIと向き合っていた。
「本日の学習テーマ:非効率な判断」
「……非効率?」
「はい。人間特有の行動パターンです」
田中はしばらく黙った。
そして、こう言った。
「いいか。まずな……無駄な会議を開く」
AIが即座に記録する。
「目的は?」
「ない」
「……理解不能」
田中は笑った。
「それが“人間”だよ」
その瞬間、彼は初めて気づいた。
仕事は失った。
だが——
自分の中身は、まだ残っていた。
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