第4話 送

遠ざかる楓の後ろ姿を見送りながら流風は再び腰を下ろした。

「…手を出してはいけないよ。」

誰にともなくそう言うと、近くの茂みがガサガサと音を立て、程なくして少年が一人姿を現した。

「気付いてたんだ。」

「君の気配の隠し方にはムラがあるのだよ。」

「ふぅん。あの女…」

「破魔の里の子とはね。なかなか面白そうな子じゃないか。」

顔見知りらしい二人は慣れた様子で言葉を交わす。

もう木々の間からチラチラとしか見えなくなった背中を目で追う流風。どこか楽しげだ。

「楓って名前…_」

「里長の孫娘、かい? わかっているよ。」

あっけらかんと答えた流風に少年は目を瞬かせた。

「最初はわからなかったが…桜に楓、間違いないだろう。…手合わせ願おうなんて妙な気を起こしてはいけないよ、蓮(れん)。」

“蓮”と呼ばれた少年はばつが悪そうにポリポリと頭を掻く。どうやらそういった考えを持ち合わせていたようだ。

「…オレ以外にも居ると思うけど。」

冷ややかに目を細め、楓が去って行った方角を惜しそうに眺める蓮。もう楓の姿は捉えることはできない。

「無事を見届けるよう七尾を付けた。大丈夫さ。」

「そんな気に入ったの? あの女。」

「破魔の里との争いは出来るだけ避けたい。むしろ仲良くすべきだと僕は思うんだ。」

「前半賛成、後半無理。」

無機質な話し方は彼の癖らしい。ばっさり切り捨てられるも、流風は気にする様子もなく何処吹く風といった面持ちだ。

「あの手拭い、返しに来るのかな。」

興味なさそうに蓮が呟いた。

「そうだったら面白いね。」

「…白鴉(はくあ)に怒られれば良いのに。」

その一言に流風が露骨に嫌な顔をした。どうやら“白鴉”という人物が苦手なようだ。

「告げ口するつもりかな?」

溜め息混じりに尋ねる流風に“さぁ?”と短く返して蓮が背を向けて楓の去った方向とは真逆へ歩き出す。

「行くのかい?」

「七尾、ここに戻って来るんでしょ? オレ、七尾と反りが合わないから。」

「同胞ではないか。仲良くしたまえよ。」

流風の声を背中に受け、「やだ。」とヒラヒラと手を払って蓮は深い森の奥へと消えていった。

「さて…これからどう転ぶかな。」

夜の帳が下り、星がぽつぽつと光り始める。

流風は空を見上げ、大きく息を吐いた。思いを巡らせるように、真っ直ぐな眼差しで見上げた月は笑っているような細い弧を描いていた。

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