第92話 猫は 突然 死にかける
(自筆【ファリス】イラスト)
https://kakuyomu.jp/users/ugimuro_sashiko/news/2912051596225866993
僕はトロス宮で半日ほども眠り込んでいたらしく、
目が覚めたらすっかり日が暮れていた。
ファリスが「ヤァヤァ」と言いながら入って来て、
「シャレたもんは要らんぞ。
腹にたまるものをドンドンお出しするんだ!」
と言いつけている。
「現場の状況は…」
「ハイハイ、心配ご無用。
シリウス様が今すべきことは…」
「食べること、だな?
お前も共に食べるだろう?
ファリスと僕の間だ。マナー抜きで頼む。」
僕たち二人は、運ばれてきた食べ物を、
運ばれてきたそばからムシャムシャと食べ始めた。
ひたすら黙々と食べ、空になった皿が積み上がる。
ファリスが「食った食った」と食後酒に手を出しても、
僕はまだ、串にささった茹でジャガイモを頬張って、
骨付き肉にも手を出していた。
「ところで、いってらっしゃいのキスはしてもらいましたか?」
「ゲホッ」
ジャガイモがのどに詰まって、思い切りむせる。
ファリスはニヤニヤ笑って僕を見ている。
「してない!…こんな事態だぞ…
ギュ…ギュッてしただけだ…ま…窓越しに…」
「アーもぅ!チクショーめ!!!初恋に乾杯!!!」
ファリスは酒を一飲みであおった。
「さあ、シリウス様、貴方はやるべきことをなさった。
たくさん食べたら、俺やトロス州の民を信じて、
大神殿にお帰りください。」
僕は骨付き肉にかぶりついていたが、
リヒトさんのことを思い出して、顔が熱くなった。
「アアア―!赤くなっちゃって、もう!
そのお肉食べたら、いいこだから、坊や、帰んな?!
お嬢が待ってんだろ!!」
僕はファリスをチラリと見ると、猛然と骨付き肉を食べる。
そうだ、これを食べ終わったら、大神殿に帰るんだ!!!
********
と、急に大王付きの一人が走り込んできた。
「シリウス様!!!」
一見してただならぬ事態が起こったと分かる。
ファリスが瞬時に人払いをする。
「言え、シモン!」
「リヒト様が…重体です。」
「なんだと?」
「本日お昼頃から不調を訴えておられ、
侍医もステファニー様も呼びましたが…
夕方に意識を失って、呼びかけにも答えず…
すぐに私が、ここまでお伝えに…」
僕は一瞬、訳が分からなかった。
…意識がない?リヒトさんが?
「しっかりしろ!大王様!!!!!」
ファリスが急に、僕の肩を掴んで揺さぶった。
「今から、俺の力を、シリウス様に貸す。
無効化しないで、しっかり受け入れてくださいよ。
神路開門 神通力 【虎に翼】」
ファリスが左こめかみの虎の刻印を、僕の額の刻印に当てると、
僕の身体に力がみなぎり、
活力が沸き上がってきた。
「なあ、意識がなくなるってのはただごとじゃねぇ。
すぐに帰ってください。
俺みたいに、死に目にも会えなくなる!」
【死に目】という言葉が、金棒のように僕の頭をぶん殴る。
「早く!!!行け!!!!!」
ファリスに背中を叩かれて、僕は夢中で部屋を走り出た。
**********
日付が変わる前に、僕は大神殿に帰還した。
昨日のこの時間は、ちょうど、
リヒトさんを抱き締めて、
「明日はずっとこうしていよう」と約束したんじゃなかったか。
僕はなりふり構わず全力疾走して、リヒトさんの部屋に走り込んだ。
燭台が灯る部屋には、ステファニーと大王付きの侍医がいた。
「リヒトさんは…まさか…」
侍医は低い声で答える。
「生きていらっしゃいます…
が、厳しい状況です。」
僕はリヒトさんに歩み寄ると、手を握った。
…異様に冷たい。
人間は体の端から死んでいくというが、まさか…
「原因は…?」
「はっきり申し上げると、分かりません。
症状としては、心臓の病のようですが、それにしては進行が早すぎます。
毒虫と思って身体中を調べましたが、痕跡はありませんでした。」
「食事に毒が混入した可能性は?」
「塩の一粒に至るまで調べ上げましたが、現状、何も見つかっておりません。」
「解毒剤は?」
「何度も注射しております。」
「ステファニーは治癒の神通力をかけたんだな?」
「もちろん…ただ、神鼠以外の神通力は、治癒にはあまり役立ちません。
かえって、リヒトさんの体力を奪ってしまう状況です。」
僕はリヒトさんの顔を見たまま、侍医に聞いた。
「僕が治癒の神通力を持っていることは知っているな?
神鼠の神通力は
今の状況で試してみることは…どう思う?」
「シリウス様が神通力をかけて、
リヒト様が獣化することがあれば…
即座にリヒト様は天に召されます。」
僕は、機械的に尋ねた。
「リヒトさんは、後どれくらい持つ?」
「長くて…三日ほどかと。」
「そうか。」
僕は、リヒトさんの顔にそっと手を置く。
なんという冷たさだろう。
「もう、目覚めることも…ないのか?」
「その可能性もございます…」
「ステファニー、ゴミの一つに至るまで、毒物の痕跡がないか調べろ。
お前たちも、毒物にやられる可能性があるから、十分に気を付けるんだ。
絶対に、これ以上被害者を出すな。」
僕は、自分にかすかに残る理性で話す。
「先ほど毒虫と言ったが、当たりがあるのか?」
「はい、ヴェノムというクモの毒です。
私も2,3例、患者を見たことがあります。
が、ヴェノムの生息地域は限られています。
大神殿からヴェノムが出たなどとは聞いたことがありません。」
「…二人とも、下がってくれ。」
(次話に続く)
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