第10話(重複投稿)

 18:30過ぎ、塾が終わってうちは家に歩いて帰った。


もう七月も終わりで少しづつ日が短くなってきている。ちょっとした林の横を通ると、蜩の鳴き声が聞こえてくる。


外にいて、こんなにも清々しい気持ちで居れるのは何年ぶりだろうか。


うちは小5以降、人間不信になりかけて初めて会う人の大半は怖いと思ってしまっていた。


特に中学校の入学式の時は周囲にいる人がみんな怖くてまともに目を合わせることもできなくて誰とも仲良くすることができなくてうちは中一の時点でクラスで孤立してしまった。


やっぱりこの振る舞いのせいかみんな怖がって一部の女子や男子から嫌味を言われることも増えた。


秋ごろにはクラスの大人しい子と仲良くなれたけどその子はあまり積極性がなくていつもうちから話しかけてばかりいた。


二年の時、クラスが離れてうちはまた新しいクラスでも一人になってしまった。


いつだったかはあんまり覚えてないけどある日、仲よくしていたあの子がある男子…。学年で「敵に回したら厄介だ」と噂されいた男子の津山翔太に何かの件で責め立てられ、廊下の隅に追いやられていたのをうちが



「もうやめてあげてよ。」って注意したらその男子はうちに「覚えとけ。」って一言残して行っちゃった。


一緒に居た男子一人…日南圭はうちを見て


「ブスがイキらないほうが良いよ。あいつ、顔面主義の人間だから。」

と酷い言葉を残して行ってしまった。その時のうちは言われるだけで済んでよかったと安心しちゃってた。


仲良かった子には「もう関わらないでほしい。あなたのせいでもっとやられるようになった。」って後日校舎の裏に呼び出されて言われた。


その子は結局不登校になってしまった。


うちは残りの二年生の期間は平穏に過ごした。


二年生の最終日。終了式の日にうちは図書館に本を借りに行って何冊か抱えて持っていたら図書館の出入り口のドアに肩をぶつけて持っていた本を落としてしまった。


やってしまったと思って一冊づつ拾っていると「大丈夫?」と声をかけられた。


顔を上げるとそこには…。武蔵旭。旭くんが立っていた。旭くんは一部の女子に「意外と外見がいい」と噂されている男子だった。


うちは緊張しちゃってあんまり喋れなかったけど普通に本を拾って渡してくれた旭くんを良い人だなと思った。


でも、三年生に進級してクラスが同じになってそのイメージは下がった。


旭くんは毎日津山翔太と日南圭と絡んでいて周囲の大人しいクラスメイトを威圧していた。


それに、うちは二年生のころの件もあってか津山からは目を付けられていて四月の中旬からいじめられるようになった。


例えば、うちが先生に指されると津山はニヤニヤした顔で日南や旭くんの顔を見たり、うちが三人の横を通り過ぎると津山と日南がわざと吹き出したりうちがシャーペンを落として日南の机の下に行ってしまったらうちのものだとわかっているのにあえて黒板の粉受のところに置いて「だれの?」と黒板にチョークで書いて晒しものにしたりと絶妙に誰かに相談しても


「気のせいじゃないの?」


と済まされるような内容ばかりだった。


6月を過ぎてくるとその程度では無くなっていった。


ある日の授業中、うちが授業に集中しているとふと、何かが机に飛んできた。見ると、紙を小さくちぎったものだった。それを恐る恐る手に取ると、「勘違い野郎」と雑な字で書かれていた。


斜め後ろを顔を動かさないように確認すると日南がニヤニヤした顔をしてみている。前の席のほうにいる旭くんはそれを見て手で口を抑えて笑いを堪えている様子だった。


実際旭くんがうちに対して嘲笑している様子を見たのは初めてだったので少しショックだった。勿論陰で色々言ったりしているだろうと思っていたけれど目にしてしまうと違う。


だから、テスト後の総合で「ペアになろう」って声をかけられたときは怖くて仕方がなかった。


からかう意図があるのだろうとは分かっていたけど断ったら断ったで何かされるのが怖かったから断れなかった。本当にうちは逃げ場がなかった。


家のほうではおばあちゃんの病気が悪化しかけて、朝から看病することも多かったし死んじゃったらどうしようって泣くことも多かった。なのに学校では男子にいじめられて。旭くんも憎くて仕方がなかった。


帰り学活後に、三人で何か言ってるのだって若干聞こえていたし。


それなのにうちは旭くんが雨の中、転んでいるところを助けた。


あの日、本を拾って貰ったことが関係していたのかは分からないけど助けてしまった。寛也くんと友達なんだってわかって本当は良い人なんじゃないかって目を瞑って普通に話し始めた。


「もう、仲良くしてもいいかもしれない。」と思うきっかけになったのは自転車の後ろに乗せて家の途中まで送ってもらったことだった。


表情を観察していたけれど何かを企んでいるようには見えなかった。色素が少し薄くて茶色っぽい目には嫌な濁りが見えなかった。少なくともその瞬間だけは…。


改めて容姿を思い出してみると旭くんは髪や目の色の色素が少し薄くて茶色っぽくて髪はサラサラしていて髪質がいい。テニス部に入っていたからか肌は適度に焼けていた。なにより、目は末広二重だったけど綺麗な形をしていて鼻も適度に鼻筋が通っていて…。


イケメンとまでいかないと思うけどうちとは違って素材が良かった。


だけどあんまり女子に積極的に関わりに行っている姿を見たことがない。それもまた、良さを際立たせていた。


うちはいつの間にか旭くんに惹かれ始めていた。


商店街を少し歩いて、一緒に図書館へ行って勉強して、ご飯を食べながら過ごして、夕焼けを見ながら一緒に歩いている最中に夏祭りに誘われて。


嬉しい気持ちを隠すためにからかってしまうことも増えたけど、それでも旭くんとうちの距離は少しづつ、近づいてきているように感じる。


夏祭りには、何を着てどんな髪型で行こうか…。


うちは家に着き、まず最初におばあちゃんの部屋に向かう。おばあちゃんの部屋は二階にある。


「ただいま。おばあちゃん、帰ったよ。」そう言ってうちは襖を開ける。


おばあちゃんは部屋の椅子に腰かけて縫物をしていた。「おばあちゃん、悪化してきているんだから無理しちゃだめだよ。」うちが宥めるとおばあちゃんは


「そうよね。でも、来月までしか家にいれないから好きなことはやっておきたいのよ。」そういうとおばあちゃんは針を置いてうちの顔を見る。


「レイン、あんたここ数日で顔が明るくなったわね。」おばあちゃんは何でもわかるんだ。「そ、そう?」「こっち来なさい。」


おばあちゃんの椅子の横に来て、しゃがむ。すると、おばあちゃんの手が頭に置かれる。


そして、くしゃくしゃと頭を撫でてきた。「きっと、上手くいくわよ。何もかも…。」


その言葉を聞いてうちはいつの間にか一滴の涙を流していた。


「そうかな…。まだ、怖いの。何かが…。」「夏祭り、今年は行くのかい?」「うん…」うちは力なく答えた。


「誰と行くんだい?」


どうしよう。本当のことを言おうか。もし「好きな人?」なんて聞かれたら、どうしよう。向こうは、旭くんはそんなつもりじゃないかもしれない。


考えた挙句、「クラスの人と。」と答える。「クラスの人って女の子かい?それとも…。」おばあちゃんは本当に鋭い。何もかもわかっているよというような瞳で見つめてくる。


「男子…」頬を赤らめて答えると「そうかい。よかった、よかった。じゃあ、素敵な浴衣を着つけてあげるからね。」おばあちゃんは変に冷やかさず、受け入れてくれた。


お兄ちゃんたちやお母さんとはやっぱり違うんだ。「ありがとう、おばあちゃん。」うちは子どもみたいにおばあちゃんに抱き着いた。


いつもおばあちゃんはうちが何も言わなくても慰めてくれたりと、本当に優しい。


うちはおばあちゃんに支えられて学校に通っているようなものだった。


「うち、最近生きててよかったって思えるようになってきたよ…。」

「そうかいそうかい。ぜひ良ければおばあちゃんに紹介してほしいものだねぇ。」

「そんなんじゃないよ。おばあちゃん。でも、今度連れてこられたら会ってほしいな…。きっとおばあちゃん好みの顔だと思う。」

「あれ?イケメンって事かい?すごいじゃないかレイン。」そう言っておばあちゃんはうちを抱きしめ返してきた。


その後うちは自室に向かった。この家は無駄に広いし、無駄に廊下が長い。


でもこの家で過ごすのもあと八か月程度だと思うと、寂しい。しばらくは家を空けておいて誰かに貸したりしないから大人になってここに住むことだってできるのかもしれない。交通の便だって悪くないし。


でも、うちは引き継げないでお兄ちゃんとかに取られちゃうのかなぁ…。そうだとしたら、仕方ないのかもしれない。


うちはスマホの写真フォルダを開いて、旭くんと寛也くん、うちの三人で写っている写真を眺めた。この三人で今度どこかに遊びに行きたいと、うちは心から思った。


三人で過ごすようになったのはほんの最近のことだけどもっと前から一緒に居るみたいに、楽しい。男子と関わるのも思っていたより悪くなかった。


でも正直、同性の友達も欲しいと思う。


だから、都会の高校に行って新しい人に出会っていろんな人と友達になるんだと心に決めた。


でも、それを叶えるには勉強をしっかりやらないと…。うちは模試の過去問を出して、解き始めた。

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