第39話


 あれから、あっという間に運命の三日後がやってきた。


 いよいよ、今日で俺が無惨に処刑されるか、それとも冤罪を晴らせるかが決定するってわけだ。


 この三日間、俺とアダム爺さんは貝のように宿舎に籠っていた。もうやることはないと王国にアピールする意味合いを込めて。もちろん、その間に歩廊係の仕事はさせてもらえなかった。そのせいで、アダム爺さんのやけ酒に遅くまで付き合わされる羽目になったが。


 それと、彼の知り合いを通じて、息子のクロードに孫娘のリリアが誘拐されないように細心の注意を払ってくれと伝えたらしい。いくら王国が腐っているといってもさすがにそこまではしないとは思うが、念のためにも気をつけておいたほうがいいだろう。


「……いよいよじゃな、タケ」

「そうですね、アダム爺さん」

「……それにしても、わしは心配で心配でたまらんというのに、タケは憎らしいくらいスッキリした顔をしとるのう。死ぬのが怖くないのか?」

「まあ、まったく怖くないってわけじゃないですが、虚勢も大事ですから。それに、人生なんていつか終わるって思ったら開き直れますよ」

「……お前さん、本当に16歳か?」


 久々に宿舎から外へ出るというのもあって、新鮮な空気を思い切り吸うことができた。当然、そこら中にいる兵士たちが常に監視しているのはわかっていたが、王城への足取りも軽かった。おそらく、この三日で王族たちは目まぐるしい動きを見せただろう。


 三日しかないのに俺たちが二日目以降動かなかったことで、王室の連中がどれだけ焦ったかは想像に難くない。さあ、王城が近づいてきた。着せられた濡れ衣を脱ぐだけじゃなく、やつらの面子に泥水をかけてやるときがきたんだ。


「――では、これより、反逆者の疑いのあるムカサ・タケユキの裁判を始めることとする!」

「「「「「オオォォッ!」」」」」


 王城の大広間にて、大臣の宣言により俺たちの命運を賭けた裁判が始まった。なんというか、凄い熱気だ。嫌疑をかけられているのは俺のほうだが、信じてくれる相棒のアダム爺さんや、心配そうにこちらを見ている王女様のためにも、絶対に負けるわけにはいかない。


「オッホン……まず、事件の詳細をば。自白した転移者の話によれば、酒場から出てきた一般人を剣で殺害したのち、報酬を受け取るためにムカサのいる宿舎へ走ったのだという」

「大臣、ちょっと待ってください」

「ムカサよ、どうした?」


 ここが自分の冤罪を晴らす場である以上、俺はこれだけは言っておきたいことがあった。


「俺が指示した殺人事件であることがまだ確定してない以上、一般人を殺害した者も嘘をついてる可能性があるわけで、この場へ呼ぶべきでは?」

「……嫌疑をかけられているのはムカサ、お前のほうだ。自首してきた者は自身の罪を素直に認めて牢獄におり、今はここに召喚する必要がない」

「……なるほど。それじゃあつまり、俺の冤罪が証明されれば、この裁きの場に転移者を引っ張り出すことができるってわけですね?」

「……まあ、そうだな。私としては万に一つもないと思うが、もしそうなれば自白が虚偽だったと証明され、審問の対象となるであろう」


 大臣はいかにも物臭げな顔をしていたが、これはこっち側にしたらとても重要なことだ。俺だけが一方的に裁かれるのは理不尽すぎるわけだからな。


「……では、事件の概要をもう一度繰り返す。自白した転移者の発言によれば、ムカサ、お前に指示されて城下町の大通りで一般人を殺害したのち、報酬を受け取るべくお前たちの寝泊まりする宿舎へ向かったという。ムカサよ、この発言の内容を素直に罪を認めるなら、苦しまずに斬首刑に処する。もし認めずに罪が立証された場合、八つ裂きの刑――」

「異議あり!」

「「「「「ザワッ……」」」」」


 大臣の言葉を遮った俺の異議申し立てに大広間が揺れる。


「ム、ムカサ……八つ裂きの刑に処される覚悟はできているとのことだな。では、どう足掻いても無駄だとは思うが、お前の異論とやらを口にしてみるがいい!」

「「「「「……」」」」」


 大広間は、圧倒的な沈黙に包まれる。それに比例する格好で俺はなるべく黙った。普段からよく喋る人間の言葉より、黙っている人間の言葉のほうが、人はよく耳を傾けるのだという。


 これは勿体ぶって自分の言葉に一層説得力を持たせるためというより、敵をさらに焦らせるための戦略でもあった。それで言わなくてもいいことを口走ってくる可能性もあるし、勝手に墓穴を掘ってくれるかもしれないからだ。


「被害者の血痕は、確かに俺とアダム爺さんの泊る宿舎のほうへ点々と連なっていました。これはおそらく、宿舎へと走る途中で、加害者の剣についた被害者の血痕が垂れ落ちたためでしょう。しかし、そこには重大な見落としがあります」

「見落としだと? ムカサ、いい加減見苦しいぞ! それだけの証拠が揃っているのだから、もう十分であろう!」

「大臣、俺の話はまだ終わっていないので、よくお聞きください」

「……む、むぐっ……」


 大臣は王様の顔色を伺いつつも目が泳いでいて、かなり焦っているのが伝わってくる。いいぞ、その調子だ。


「被害者の血痕は、宿舎の方向へしばらく続いたのち、に転換したんです」

「「「「「オオォッ……!」」」」」


 どよめきが上がるのも当然だろう。なんでそんなことがわかったのかって、血痕の持ち主だけでなく、その流れさえも武眼で見ることができたからだ。


「で、出鱈目を抜かすな、ムカサよ! では、そのような血痕があると証明できるか? できないであろう!」

「まあ、もう今頃はとっくに洗い流されているでしょうね。でも、この目でしっかり確認しているので、俯瞰石による映像でそれは証明できます」

「ぬ、ぬうぅ……」

「しかも、宿舎途中で脇道に逸れたこの血痕は、そこから王城のほうまで続いてました。これは、明らかに偽りの自白をした転移者が俺に罪をなすりつけるためにやった卑劣な行動です」

「「「「「……」」」」」


 これには、さすがに大臣を含めて苦々しい顔で黙り込んでしまった。ただ、まだまだこれで勝ったとは思っていない。やつらは例によって、最後の最後まで見苦しく反論してくるだろうから。


「だ、だが、その脇道に逸れた血痕とやらが、被害者のものだと証明はできまい! たとえばムカサ、お前が疑惑を晴らすためにと、自分自身の血を撒いただけとも考えられる。どうだ、反論できるか!?」

「……」


 やはりそう来たか。その血痕は被害者の血だと俺がどれだけ主張しても、それを証明する術はないわけだからな。だが、大臣のこの切り返しは織り込み済みだ。


「それなら、すればいいんです」

「……な、な、なんだと?」

「俯瞰石に映像として記録されている血を、鑑定士ルベルクに鑑定してもらうんです。そうすれば、俺の血じゃないことを証明できるでしょう」


 これは私兵隊長のシーラにも確認したことだが、実際にそれが可能なんだとか。


「……」

「大臣、どうしましたか? そんなに青ざめて。それとも、証明できないんでしょうか?」

「……い、いや、そういうわけでは……」

「じゃあ、お願いできますよね? 今すぐ、鑑定士ルベルクをここに連れてきてください」

「ぐ、ぐぬううぅっ……」


 苦悶の表情を浮かべているのは、大臣だけじゃない。王様はもちろん、その周囲の親族、延いては護衛している霧谷もそうだ。晴れ晴れとした面持ちの王女様を除いて、みんな窒息しそうな顔つきをしていたんだ。さあ、これで追い詰められた連中がどう出るのか、本当に楽しみになってきたな……。

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