第5話3次審査 知力審査 セクション1 知性という名の武器

第5話3次審査 知力審査


セクション1 知性という名の武器


体力審査のざわめきがようやく落ち着いた頃、会場の中央に長机が運び込まれた。


白い布がかけられ、その上に整然と並ぶ羊皮紙と羽根ペン。


観客席がざわつく。


「次は何だ?」 「また走らせるのか?」


王太子は椅子に深く腰かけたまま、軽く顎を上げた。


司祭が一歩前へ出る。


「第三次審査を行います」


候補者たちの視線が自然と机へ向く。


ノエルは小さくため息をついた。


(机……座る……つまり静かな時間……)


嫌な予感しかしない。


司祭が宣言する。


「第三次審査は――知力審査でございます」


一瞬、静寂。


次の瞬間、声が弾けた。


「知力審査?そんなもん聖女に何の関係があるんだ!」


バルバラだ。


机を指さし、堂々と抗議する。


「聖女ってのは祈るんだろ!?走るのはまだ分かる!だが字を書く必要がどこにある!」


観客席の一部から笑いが漏れる。


「たしかに」 「戦場じゃないしな」


だが、それを遮るように扇がぴたりと閉じた。


「ありますわ」


エリカが立ち上がる。


その動作は優雅で、声はよく通る。


「むしろ必須ですわ。知性なくして聖女といえますの?」


視線が集まる。


彼女は続けた。


「聖女とは、ただ祈るだけの存在ではありません。王に助言し、民を導き、教義を理解し、判断を下す立場。無知な聖女など、国を誤らせるだけですわ」


観客席がざわめく。


「なるほど」 「たしかに」


バルバラが鼻を鳴らす。


「難しい言葉を並べやがって」


「理解できないのはあなたの問題ですわ」


即座に返すエリカ。


火花が散る。


クラリスが静かに口を開いた。


「聖女が象徴であるならば、なおさら知性は重要です」


彼女は机を見つめる。


「象徴は言葉で語られます。言葉を扱えない者が象徴を担うのは、危うい」


その声音は淡々としているが、芯がある。


司祭が頷く。


「問題は、王国史、教義基礎、簡単な論理判断でございます」


ノエルがぼそりと呟く。


「まともな審査……」


一瞬だけ、安堵が混じる。


走らなくていい。 殴らなくていい。 脱がなくていい。


だが。


「……辞退したい」


本音が漏れる。


ミレーユが隣から顔を覗き込む。


「え?なんでですぅ?」


「頭を使うの、めんどくさい」


正直すぎる。


ミレーユは困った顔をする。


「でも、バルバラさんみたいに破るのはダメですよぉ?」


「破らない……多分」


バルバラは腕を組み、机を睨む。


「文字は敵だ」


「敵ではありませんわ」


エリカが冷たく言う。


「知識は力ですの」


王太子がようやく口を開いた。


「聖女は国の顔だ」


静かな声だが、場が引き締まる。


「無知な顔は、国の恥になる」


エリカの唇がわずかに上がる。


クラリスは目を伏せる。


ノエルは遠い目をする。


ミレーユは机の上の羽根ペンをつつく。


バルバラは天井を見る。


司祭が合図を出す。


「着席を」


五人が机につく。


観客席が静まり返る。


羊皮紙が配られる音。


羽根ペンが置かれる音。


緊張が、じわりと広がる。


エリカはすでに余裕の表情だ。


「この程度であることを願いますわ」


クラリスは姿勢を正す。


ノエルは机に頬をつけたくなる衝動をこらえる。


ミレーユは紙を裏返してみる。


「文字がいっぱいですぅ……」


バルバラは紙をつまみ上げる。


「読めるかな……」


王太子がゆっくりと立ち上がった。


「始め」


羽根ペンが一斉に動き出す。


静寂。


紙を擦る音だけが、会場に響く。


知性という名の武器が、いま、試される。

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