第12話:結局***やん

 再び聖剣を手にしたサトウ。転生して一周目の人生の労働規約は極めて残酷であった。


 しかし、その事実にめげることなく二週目に入り、この世界の理を打ち破ろうとしているサトウがいた。


 ……しかし、




 『……だが、サトウよ。一つ、極めて事務的かつ致命的な報告がある』

​ 

 「一週目のお前は死ぬ運命だった」という、人生最大級のバッドニュースを突きつけられ、サトウが呆然と立ち尽くしていたその時。聖剣はさらに温度の低い、どこか「サトウの人間性を試す」ような不吉な振動を掌に伝えてきた。

​ 

 (……なんだよ。もうこれ以上、俺の胃に穴を開けるような情報を出すな。……平行世界だの死の運命だの、それだけで十分お腹いっぱいなんだよ……)

​ 

 『……残念ながら、実務上の問題だ。……現在の俺は、貴様という「理の外の存在」をこの世界に繋ぎ止めるために、リソースの大部分を割いている。要するに、聖剣としてのエネルギーがほぼ空の状態なのだ。このままでは、ただの光る棒として、数時間後には再び深い眠りにつくことになるだろう』

​ 

 サトウは、手に持った聖剣をまじまじと見つめた。まばゆい黄金の光を放っていたはずの刀身が、言われてみればどこか、電圧の不安定な蛍光灯のようにチカチカと不気味に明滅している。

​ 

 (はあ!? おい、冗談だろ! せっかく迷宮の最深部まで来て、正規の手続きで引き抜いたんだぞ! お前が寝ちまったら、俺の「死の運命」の回避はどうなるんだよ!)

​ 

 『……物理的な外部充電チャージが必要なのだ。それも、ただの魔力ではない。……一周目を思い出せ。一週間の間、俺の意識と最も密接に同期し、かつ魔力のバイパスが最も太く構築されていた「特定のポート」に直結させ、持続的に供給を受けけていたのを覚えているか?……その一週間の膨大なログが、最適解を一つだけ示している……』

​ 

 聖剣の「声」が、妙に事務的で、それでいて拒絶を許さないトーンに変わる。サトウの脳裏に、嫌な予感がよぎった。嫌な予感というよりは、もはや吐き気を伴う確信だった。一週間の間、ずっと共にあり、聖剣が「ここは落ち着く」と評していた、あの信じがたい定位置。

​ 

 (……待て。お前、言わないよな? まさか、あの場所に戻せなんて、口が裂けても言わないよな……!?)

​ 

 『……察しがいいな、サトウ。……やはり……



 ───────────────────

  ───アルベルトの「臀部ケツ」だ───

 ───────────────────



 ……あそこほど、俺の回路に魔力が馴染み、かつ形状的にジャストフィットする場所を、俺は他に知らん。……一週目、あの男が暴発させて俺をそこに突き刺したのは、ある種、世界を救うための「最適化」だったのかもしれんぞ』

​ 

 「……っ、ふざけるな! 絶対に嫌だ! 二週目に来てまで、なんでまたアイツのケツを見なきゃいけないんだよ!!」

​ 

 サトウは迷宮の壁に響き渡るほどの絶叫を上げた。一週目、あの不名誉極まりない「ケツから生えた剣」を必死に手入れし、血と脂を拭い、時には引き抜いて戦場を駆け回ったあの屈辱の日々。二週目こそは、あんな汚らわしい光景からはおさらばして、スタイリッシュな勇者としてホワイトに生きようと思っていたのに。

​ 

 「サトウさん!? 嫌って……何が!? 聖剣があなたに何を要求したの!? 大丈夫、あなたが嫌なものは、私がこの迷宮ごと、概念から消し去ってあげるから!」

​ 

 「サトウ様、落ち着いてください。……もしその剣が、貴方の清らかな精神を汚すような不浄な儀式を求めているのなら、私が教会最高の禁忌術エクソシズムを以て、その執着を断ち切って差し上げます。……サトウ様を苦しめるものは、例え伝説の武器であろうと許しません」

​ 

 リナとセシルの目が、先ほどよりもさらに鋭く、暗い光を宿す。彼女たちは聖剣の声こそ聞こえていないが、サトウの激しい拒絶反応を見て、聖剣を「サトウを精神的に追い詰める呪物」として認識し始めていた。

​ 

 『……サトウ、聞こえるか。女たちの殺気が、魔王軍の総攻撃よりも苛烈だぞ。……だが、俺をアイツのケツに収めなければ、俺はあと数日で再び鉄屑に戻る。そうなれば、貴様の「死の運命」を回避する計算機を失い、貴様は再びシステムの露と消える。……いいのか? 視覚的な尊厳を取るか、それともこの「二週目」の生存権を取るか。……選ぶのは貴様だ』

​ 

 (……っ、この……っ! お前、わざとだろ! 一週目の記憶があるなら、俺がどれだけあの光景に嫌気が差してたか知ってるはずだろ!)

​ 

 『……フン。俺にとっても、あの男の臀部は不本意だが……魔力の伝導率だけは、他の追随を許さないのだ。……さあ、時間は惜しい。アルベルトも「聖剣を手に取ることで勇者になる」という浅ましい野望を持って訓練場で汗を流しているはずだ。……奴のケツに、再び「伝説」を装填リロードさせてやるがいい』

​ 

 サトウは、天を仰いで慟哭した。一週目は事故だった。二週目の今は、確信犯聖剣による要求だ。平和な隠居生活。ホワイトな職場環境。それらを維持するためのコストが、「元同僚のケツに剣を刺す作業」への復帰だなんて、どんなブラック企業でも思いつかない悪辣な条件だ。

​ 

 社畜時代の教訓その二百。プロジェクトの基盤エネルギーを維持するためなら、視覚的なハラスメントであろうと、不浄な作業環境であろうと、それを受け入れなければならない時がある。……それが、世界を救うための文字通り「汚い仕事」なのだから。

​ 

 「……ああ、分かったよ! やればいいんだろ、やれば! ……リナ、セシル、ちょっと……覚悟を決めておいてくれ。これから、この世で最も汚らわしくて、最も『伝説』から遠い光景が繰り広げられることになる……!」

​ 

 「えっ? サトウさん、何を言ってるの……?」

​ 

 「サトウ様……貴方がそこまで悲痛な決意をなさるというのなら、私は……私はその全てを受け入れます。何が起きようと、私は貴方の味方です」

​ 

 迷宮への出口はもう近い。ここから町に戻れば、がいる。

​ 

 『……来たな。……さあサトウ、再会の挨拶代わりに、俺をアイツの「本拠地」へ送り届けろ。……伝説の第二章は、あのケツの中から再び始まるのだ!!!』

​ 

 (……黙れクソが!なんで俺の二週目も、こんなに「ケツ」に振り回されるんだよ!!!)

​ 

 サトウの絶叫は、迷宮の外に広がる歓声にかき消された。


 一週目の死を乗り越え、二週目の生存を勝ち取るための代償――それは、再び「尻勇者のマネージャー」へと身を落とすという、あまりにも不名誉な再就職の始まりであった。

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