第36話 初デート

日曜日。


駅前で立っている。


(……早すぎたな)


待ち合わせはまだ少し先。


でも落ち着かなくて、早めに来てしまった。


スマホを見る。


時間はまだある。


(初デート、か)


自分で思って、少しだけ変な感じがする。



「早いね」


後ろから声がする。


振り返る。


宮野がいた。


「お前もな」


「今来たとこ」


絶対嘘だと思う。


でも、突っ込まない。



「じゃあ行く?」


「ああ」


並んで歩き出す。


行き先は特に決めていない。


それでも問題ない気がした。



商店街を歩く。


店を適当に見ながら進む。


特に目的はない。


でも、それがちょうどいい。


「こういうの初めて?」


宮野が聞く。


「何が」


「デート」


ストレートに言う。


「……まあな」


正直に答える。


宮野は少しだけ笑う。


「分かりやすい」


またそれだ。



少しだけ人が多い通りに出る。


自然と距離が近くなる。


肩が軽く触れる。


前なら気になったはずなのに、今はそこまででもない。


慣れてきたのかもしれない。



「麻倉」


「なに」


「手」


短く言う。


一瞬で意味が分かる。


少しだけ迷う。


でも、すぐに決める。


軽く手を伸ばす。


宮野の手に触れる。


そのまま、握る。



「……普通だね」


宮野が言う。


「何が」


「思ったより」


少しだけ肩の力が抜ける。


「そんなもんだろ」


「まあね」


でも、少しだけ指に力が入る。



そのまま歩く。


特に会話は多くない。


でも、それでいい。


「どっか入る?」


宮野が聞く。


「適当に」


目に入った店に入る。


小さなカフェ。


席に座る。


向かい合う。



「なんか変」


宮野が言う。


「何が」


「向かい」


確かにそうだ。


学校だと隣。


こうして向かい合うのは少し違和感がある。


「まあな」


少しだけ笑う。



注文を済ませる。


少しだけ沈黙。


でも、気まずくはない。


「麻倉」


「なに」


「今日、どう?」


唐突な質問。


「何が」


「デート」


そのまま聞いてくる。


少しだけ考える。


でも、答えはすぐ出る。


「……悪くない」


正直に言う。


宮野は少しだけ笑う。


「なにそれ」


「いいって意味だ」


言い直す。



「そっか」


宮野は小さく頷く。


それだけで、なんとなく伝わった気がした。



飲み物が運ばれてくる。


少しだけ間が空く。


「麻倉」


「なに」


「また来る?」


軽く聞く。


「来るだろ」


即答する。


宮野は少しだけ目を細める。


「だよね」


満足そうだった。



店を出る。


また並んで歩く。


手は自然と繋いだまま。



夕方。


少しだけ日が落ちてくる。


「そろそろ帰る?」


宮野が聞く。


「ああ」


名残惜しい感じはある。


でも、それを無理に引き延ばす必要もない。



駅に着く。


立ち止まる。


「じゃあ」


宮野が言う。


「また明日」


いつも通りの言葉。


でも、少しだけ違う。


「ああ」


短く返す。



手を離す。


少しだけ軽くなる。


でも――


「麻倉」


「なに」


「今日は良かった」


はっきり言う。


「……ああ」


それしか言えない。



宮野が少しだけ笑う。


それを見て、少しだけ安心する。


(……悪くないな)


そう思いながら。


そのまま、帰路についた。

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