第36話 初デート
日曜日。
駅前で立っている。
(……早すぎたな)
待ち合わせはまだ少し先。
でも落ち着かなくて、早めに来てしまった。
スマホを見る。
時間はまだある。
(初デート、か)
自分で思って、少しだけ変な感じがする。
◇
「早いね」
後ろから声がする。
振り返る。
宮野がいた。
「お前もな」
「今来たとこ」
絶対嘘だと思う。
でも、突っ込まない。
◇
「じゃあ行く?」
「ああ」
並んで歩き出す。
行き先は特に決めていない。
それでも問題ない気がした。
◇
商店街を歩く。
店を適当に見ながら進む。
特に目的はない。
でも、それがちょうどいい。
「こういうの初めて?」
宮野が聞く。
「何が」
「デート」
ストレートに言う。
「……まあな」
正直に答える。
宮野は少しだけ笑う。
「分かりやすい」
またそれだ。
◇
少しだけ人が多い通りに出る。
自然と距離が近くなる。
肩が軽く触れる。
前なら気になったはずなのに、今はそこまででもない。
慣れてきたのかもしれない。
◇
「麻倉」
「なに」
「手」
短く言う。
一瞬で意味が分かる。
少しだけ迷う。
でも、すぐに決める。
軽く手を伸ばす。
宮野の手に触れる。
そのまま、握る。
◇
「……普通だね」
宮野が言う。
「何が」
「思ったより」
少しだけ肩の力が抜ける。
「そんなもんだろ」
「まあね」
でも、少しだけ指に力が入る。
◇
そのまま歩く。
特に会話は多くない。
でも、それでいい。
「どっか入る?」
宮野が聞く。
「適当に」
目に入った店に入る。
小さなカフェ。
席に座る。
向かい合う。
◇
「なんか変」
宮野が言う。
「何が」
「向かい」
確かにそうだ。
学校だと隣。
こうして向かい合うのは少し違和感がある。
「まあな」
少しだけ笑う。
◇
注文を済ませる。
少しだけ沈黙。
でも、気まずくはない。
「麻倉」
「なに」
「今日、どう?」
唐突な質問。
「何が」
「デート」
そのまま聞いてくる。
少しだけ考える。
でも、答えはすぐ出る。
「……悪くない」
正直に言う。
宮野は少しだけ笑う。
「なにそれ」
「いいって意味だ」
言い直す。
◇
「そっか」
宮野は小さく頷く。
それだけで、なんとなく伝わった気がした。
◇
飲み物が運ばれてくる。
少しだけ間が空く。
「麻倉」
「なに」
「また来る?」
軽く聞く。
「来るだろ」
即答する。
宮野は少しだけ目を細める。
「だよね」
満足そうだった。
◇
店を出る。
また並んで歩く。
手は自然と繋いだまま。
◇
夕方。
少しだけ日が落ちてくる。
「そろそろ帰る?」
宮野が聞く。
「ああ」
名残惜しい感じはある。
でも、それを無理に引き延ばす必要もない。
◇
駅に着く。
立ち止まる。
「じゃあ」
宮野が言う。
「また明日」
いつも通りの言葉。
でも、少しだけ違う。
「ああ」
短く返す。
◇
手を離す。
少しだけ軽くなる。
でも――
「麻倉」
「なに」
「今日は良かった」
はっきり言う。
「……ああ」
それしか言えない。
◇
宮野が少しだけ笑う。
それを見て、少しだけ安心する。
(……悪くないな)
そう思いながら。
そのまま、帰路についた。
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