第3話
社畜のワタシが、酔って出馬したら当選して総理大臣になりました
第3話 政治って意味分からん
「……無理」
机に突っ伏した。
「無理無理無理無理無理」
ここは議員会館の一室。
昨日までは“国会議員”という肩書きに混乱していたが――
今日、私は理解した。
「政治、意味分からん」
「想定内です」
冷静な声が返ってくる。
顔を上げると、そこには一人の女性。
黒髪をきっちりまとめ、無駄のないスーツ。
表情はほぼ動かない。
「本日より、あなたの秘書を担当いたします」
「……え?」
「氷堂麗奈と申します」
名刺を差し出される。
動きに一切の無駄がない。
「え、なんか……すごい人来た」
「事実です」
「自分で言うんだ!?」
横で真琴が笑っている。
「この人めっちゃ優秀だから安心して」
「安心できる要素どこ!?」
麗奈は淡々とタブレットを開いた。
「では早速、政治の基本から説明します」
「ちょっと待って心の準備が」
「不要です」
即答。
「まず、予算委員会における審議プロセスですが、各省庁からの概算要求を踏まえ――」
「ストップ!!」
私は両手を上げた。
「カタカナ多い!!あと早い!!」
「標準速度です」
「無理!!」
真琴がケラケラ笑う。
「分かるー、私も最初意味分かんなかった」
「真琴も分かってなかったの!?」
麗奈は表情一つ変えない。
「では簡潔に説明します」
助かった――と思った次の瞬間。
「財政規律と成長戦略の両立を図るためのマクロ的視点における政策決定プロセス――」
「もっと無理!!」
頭を抱える。
「日本語でお願い!!」
「日本語です」
「そういう意味じゃない!!」
机に突っ伏す。
「……会社の方がまだ分かる……」
「それは重症ですね」
「うるさい……」
数十分後。
私は完全に脳が死んでいた。
「……帰っていい?」
「不可です」
「だよね……」
「では次に、国会での質疑応答について」
「まだあるの!?」
さらに数分後。
「――以上が基本です」
「一ミリも分からん」
即答した。
沈黙。
麗奈が初めて、ほんの少しだけ眉を動かした。
「正直に申し上げます」
「はい」
「あなたは政治家に向いていません」
「知ってる!!」
即ツッコミ。
真琴が爆笑している。
そのまま、国会の廊下を歩く。
周りには議員たち。
「――この法案は前例がなく」
「――グローバルな視点で」
「――エビデンスが」
「うるさい!!」
思わず叫びそうになるのを必死でこらえる。
「何言ってるか分からん!!」
「専門用語です」
「使うな!!」
議場を覗く。
長い演説。
誰も止めない。
結論も見えない。
「長すぎない!?結論どこ!?」
「文化です」
「悪い文化だよ!!」
ふらふらと部屋に戻る。
「もう無理……」
椅子に沈み込む。
「私、なんでここにいるの……」
麗奈が静かに言った。
「理由は明確です」
「え?」
「あなたは民意を持っている」
「……民意?」
「あなたの発言は単純です」
「悪かったね」
「ですが」
麗奈はまっすぐ私を見る。
「だからこそ、本質を突く」
一瞬、言葉が止まる。
「……例えば」
麗奈が言う。
「あなたなら、どんな質問をしますか?」
「質問?」
「はい。政治家として」
少し考える。
難しいことは分からない。
でも――
「……給料」
「はい?」
「給料上げる気あるんですか?」
沈黙。
真琴が吹き出す。
「それそれ、それ言ってほしいやつ!」
麗奈は数秒黙り込んだあと――
「……シンプルですね」
「でしょ」
「ですが」
ほんのわずかに、口元が動いた。
「極めて本質的です」
「え、そうなの?」
「はい」
自覚はなかった。
「では」
麗奈がタブレットを閉じる。
「次の段階に進みます」
「やっと終わり?」
「いいえ」
嫌な予感しかしない。
「あなたには実際に発言していただきます」
「……は?」
「国会での初質問です」
一瞬、時間が止まる。
「……え?」
「準備はこれから行います」
「待って待って待って」
椅子から立ち上がる。
「無理!!絶対無理!!」
「問題ありません」
「ある!!めちゃくちゃある!!」
麗奈は淡々と言った。
「あなたは“分からない”からこそ価値がある」
「怖いこと言うな!?」
「分からないまま、本音をぶつけてください」
――無茶だ。
「……マジで?」
「はい」
真琴がニヤニヤしている。
「楽しみだねー」
「他人事!!」
こうして私は――
国会で発言することになった。
「……終わった」
人生が、また一段階バグった気がした。
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