象という生き物は、見れば見るほど不思議に思えてくる生き物だと思う。現世を生きる陸の獣達の中で、ほかの追随を許さないほどの巨体に驚く程長く、自由に動く長い鼻。一度吠えれば遠くまで音は響き渡り、その長大な牙はまさに王者の如し。考えれば考えるほど、どこか別の時代……例えば恐竜時代や氷河期から迷い込んできたようにしか思えない生き物だ。
1728年、そんな象が日本にやってきた。長崎から日本に上陸し、役人達に引かれながら徒歩で江戸までやってきたのである。もちろん、その衝撃は計り知れない。きっと人々は、こぞって押し寄せたのだろう。純粋に興奮する人もいれば、その巨体に職人としての『何か』を呼び覚まされた人もいただろうし、ある種の『同情』を覚えた人だっていたに違いない。
江戸にやってきた一頭の象が生み出す、人間の思いの坩堝。このレビューを読んでいるあなたも、この小説を読みながら動物園の象を見るのはいかがだろうか。