第1話「端緒」の冒頭、ジャックされたネットワーク越しに「永遠への端緒」を謳う声を鬱陶しそうに切断する刑事・弓張の描写だけで、この世界の空気が一瞬で伝わってくる。
この作品の凄みは、300字という掌のサイズに完結した「断片」として成立しながら、それが178話積み重なることで壮大な群像劇の地図が浮かび上がってくる構造にある。海上都市〈潮璃市〉の光溢れる〈市中〉と、その足元に広がる市民権なき者たちの〈潮溜まり〉という階層構造は、2話目で診療所の医師トルクアレトが凍えた住民を無言で迎え入れる場面に凝縮されている。
3話目で明かされる弓張の「熾火みたいな目」という描写が特に好きだ。外見は「厳冬の擬人化」でも、深雪や夜闇にも飲まれぬ内なる火を持つという人物造形が、たった一言で完成する。
SFというジャンルで「宇宙の孤独」を書いている自分にとって、同じSFでも都市の底辺にある人間の温もりをこれほど精密に描ける書き手がいることに、純粋に刺激を受けた。毎日更新の蓄積が作る世界の厚みを、ぜひ読んでみてほしい。