神話のリリスと、現代を生きるひとりの母親。遠く離れた二つの時間が、一丁のハサミによって静かに重なっていく構成が見事でした。
「切る」という行為が一貫しているのがお見事です。
神話的な大きさを扱いながら、足場がきちんと生活にある点に惹かれました。
口紅、写真、制服、肉まん、取れかけたボタン。そうした小さな現実の積み重ねがあるからこそ、リリスの記憶が流れ込む場面も浮かず、むしろ痛いほど自然に読めました。
復讐や怒りそのものを前面に押し出すのではなく、女が女の絡んだ糸をほどき直す物語として着地している。
暗さ一色では終わらない読後感です。傷は深いのに、最後には確かに体温が残る。
神話の引用に溺れず、現代の痛みだけにも閉じず、その両方を往復しながら一つの再生譚に仕立てた、静かで鋭い短編でした。