本作は、商品として扱われていた少女ルーチェが自分で帰る場所を選ぶまでを描いた、心温まるファンタジー作品です。
異世界が舞台ですが、テンポよい会話を通して世界観が自然と伝わってくるため、気づけば物語の世界へ入り込んでいました。
特に印象に残ったのは、ルーチェが自分の意志で「どこへ帰るのか」を選んだ場面です。
その瞬間の情景が、まるでアニメのワンシーンのように鮮やかに思い浮かびました。
タイトルにもある「ただいま」と「おかえり」、そして「家」という言葉に込められた意味が物語を読み進めるほどに心に沁みていきます。
そして最後に配置された"プロローグ"――。
壮大な物語の幕開けを予感させる、あたたかくて優しい物語でした。
作者様、素敵な作品をありがとうございました。
【レビューコンテスト応募】
この方の作品は、心にそっと触れるような書き方がとても上手いです。
気が付けば夢中で読み込んでしまっていました。
読み終わったあとも、世界観の広がりをまだ残しているので「終わり?続きは?続きはないの?」と渇望してしまうような。
ここで終わるには勿体ない作品ですが、ここで綺麗に終わらせているのがまた凄い。
壮大な物語の序章にも感じる作品です。
登場キャラクターも少ないですが、それだけに個性を際立たせ、一人ひとりに愛情をもって描写しているのがよくわかります。
なにも知らないルーチェが、少しずつ暖かさを知っていく。少しずつ前を向いていけるようになる姿がたまらなく愛おしいです。テイマーという存在価値を貰い、友達を友達と呼んでもいいと教えてもらい、成長していく姿は素直に応援できます。
それを庇護するナハトやマスターたち。家族として受け入れた以上は、なにを(主に店)犠牲にしても守るという気概と愛に満ちたギルドの仲間。
通常のストーリーでは殺伐としたストーリー、あるいはナハトとルーチェが旅に出るとか、そういう展開にしがちですが、この作品は一貫して暖かさ、優しさを描いています。
話の長さも丁度良く、外伝まですべて読んでも、さらりと読んでいけます。
時にはこういう優しいファンタジーもとても良いものだと感じました。
読んでいてこちらの心まで温かくなります。
皆さんも是非どうぞ。
本作は、見世物小屋で「商品」として扱われていた兎族の少女ルーチェが、ギルド《黒猫の家》で居場所を見つけていく物語である。
物語の骨格そのものは王道だ。傷ついた少女が温かな共同体に迎え入れられ、自分の価値を取り戻していく。しかし本作の魅力は、その過程が実に丁寧であることにある。ルーチェは最初から劇的に変わるわけではない。「家」という言葉を知らず、「食べたいものは?」という問いにも戸惑う。そんな彼女が、仲間たちとの食卓や日々のやり取りを通じて、少しずつ“人として生きること”を覚えていくのである。
特に印象的なのは、シリアスな背景とコミカルな日常のバランスの良さだ。ルーチェの境遇は決して軽いものではない。しかし本作は過度に陰鬱にならず、ナハトの飄々とした言動や、毎回のように巻き起こる騒動、個性的な魔獣たちとの交流によって読後感を温かく保っている。見世物小屋からの脱走が「お散歩」や「鬼ごっこ」として描かれるくだりなどは、その象徴だろう。笑って読んでいたはずなのに、気が付けば胸を打たれている。
また、本作は脇役たちが非常に魅力的である。軽薄そうに見えて誰よりも優しいナハト、厳しくも深い愛情を持つマスター、包容力あふれるシェリー、面倒見の良いアイラやおっちゃん。そして、くろやお豆、まんじゅうといった魔獣たちまで含めて、それぞれが確かな居場所を持っている。外伝を読むとさらにわかるが、《黒猫の家》という場所そのものが、多くの傷ついた者たちの人生の積み重ねによって形作られているのである。
そして何より、本作の中心にあるのは「家族」の物語だ。血の繋がりではない。共に食卓を囲み、帰りを待ち、帰ってきたら「おかえり」と言う。その当たり前を知らなかった少女が、「ただいま」と言えるようになるまでの軌跡が、この作品には描かれている。
優しい物語が好きな人、賑やかな群像劇が好きな人、そして居場所をテーマにした作品が好きな人には、ぜひ読んでほしい一作である。