やり直せる会話から始まる。
言葉を選び直し、少しだけ言い方を変えれば、さっきまでのやり取りはなかったことになる。
そうやって、取り消しながら進んでいく関係は、どこか安全で、どこか軽い。
けれど、読み進めるうちに、その軽さがほんの少しだけ引っかかり始める。
消したはずの言葉が、どこにも残っていないはずなのに、なぜか消えきらない。
会話は巻き戻せるのに、やり取りの感触だけが、取り残されていく。
そして、その違和感に触れた瞬間、一度だけ深く息を止める。
それは劇的な選択ではない。
むしろ、あまりにも自然で、だからこそ見過ごしてしまいそうな操作のひとつ。
けれど、その一手で、物語の見え方は静かに変わる。
やり直せるはずのものと、やり直せないもの。
その境界は、ほんのわずかにずれている。