第13話 スラム街の極悪カツアゲ



 冒険者ギルドで「大地の呪いを浄化した聖女」などという、悪徳令嬢のプライドを粉々に打ち砕く忌まわしき不名誉な称号を得てから数日後。 


 わたくしは、セトリア王国の国境沿いに広がる、淀んだ空気に包まれたスラム街の路地裏に一人で立っておりました。


「……ウッ! な、なんですのこの匂いは……! 腐った生ゴミと、カビと、泥水が混ざったような、最悪の悪臭ですわーっ!」


 わたくしは、ハーフマスクの上からさらに最高級レースのハンカチで鼻を覆い、涙目で叫びました。

 頭上には、太陽の光を遮るように薄汚れた布切れや洗濯物が無数に干され、足元はぬかるんだ泥と正体不明の汚水が溜まっています。ヴィオネに作らせた『絶対防刃・超軽量・オート温度調節機能付き』の漆黒の特製冒険者ドレスの裾が、少しでも汚れないようにと、わたくしは爪先立ちで慎重に歩みを進めていました。


 今日、わたくしはギルドのVIPルームを抜け出し、完全な単独行動をとっていますの。

 いつもわたくしの後ろをついて回っては、わたくしの極悪非道な行いを「海よりも深い慈愛!」などと勝手に勘違いして号泣する、あのポンコツ執事のジェームスは、ギルドのラウンジに置いてきました。

 あいつがいると、わたくしの悪の美学がすべて美談にすり替えられてしまいますからね! 今日こそは、誰の目も気にせず、正真正銘の悪党としてこの薄汚れたスラム街を恐怖で支配してやるのですわ!


「いいこと? ここは女神信仰を掲げながら、裏では貧民たちを見捨てているセトリア王国の暗部! この平和な顔をしてのうのうと生きている貧民どもから、なけなしの金品を根こそぎ巻き上げてやるのですわ! これぞ、悪徳令嬢にふさわしい『路地裏の極悪カツアゲ』! 一人なら、誰にも邪魔されずに完璧な悪事を成し遂げられますのよ! オーッホッホッホ!」


 わたくしは高笑いを響かせながら、路地裏の片隅でボロ布を被って震えている、一人の年老いた乞食の前にズンッと立ち塞がりました。


「そこの平民! 命が惜しければ、お前の持っている一番大切なものをこのわたくしに差し出しなさい!」


 わたくしがビシッと扇子を突きつけると、乞食の老人は「ひぃぃっ!」と悲鳴を上げ、ガタガタと震えながら、石ころのような価値のない『欠けたガラスのペンダント』を差し出してきました。


「こ、これしか……亡き妻の形見の、これしかありません……! どうか、命だけはぁぁっ!」


「ふははは! こんなガラクタ、わたくしが没収してやりますわ!」


 わたくしは、そのペンダントをひったくるように受け取ると、代わりに、冒険者ギルドで稼いできた(クエスト報酬の)『金貨がぎっしり百枚詰まったずっしり重い革袋』を、老人の胸元に目掛けてドサァッ!と押し付けました。


「ほら! これでも食って絶望しなさい! お前の大切なガラクタは、この金貨百枚で強引に買い叩いてやりましたのよ! オーッホッホッホ! わたくしの圧倒的な財力による暴力、恐れおののくがいいですわ!」


「えっ……? き、金貨!? こ、こんな大金……!」


 老人が腰を抜かして金貨の袋を抱きしめ、信じられないものを見るようにわたくしを見上げました。


「あ、ああ……! なんという奇跡だ! 女神様……いや、黒いドレスの天使様! この金があれば、病気の孫に薬を買ってやれる! ありがとうございます、ありがとうございますぅぅっ!」


 老人は、泥だらけの地面に額を擦りつけ、ボロボロと涙を流してわたくしを拝み始めました。 


 ……は?


「ちぃぃぃがぁぁぁいぃぃぃまぁぁぁすぅぅぅわぁぁぁぁっ!!」


 わたくしは、誰もいない路地裏で地団駄を踏み、張り裂けんばかりの絶叫を響かせました。


「わたくしは強引に奪い取っただけですのよ! なんでジェームスがいなくても、勝手に慈愛の天使扱いされますの!? お前、わたくしのカツアゲに絶望して泣き叫びなさいよーっ!!」


 わたくしがプンプンと怒っていると。


 ――ドガァァァァァァァァンッ!!!!


 突然、数ブロック先の路地裏の奥から、鼓膜を破るような凄まじい爆発音と、灼熱の熱風が吹き荒れてきました。

 周囲のボロ家がビリビリと震え、干してあった洗濯物が一瞬にして熱風で吹き飛ばされ、空に黒い煙が立ち昇ります。


「きゃあぁっ!? な、なんですの!?」


 わたくしは思わず扇子で顔を庇いましたが、吹き荒れる熱風に乗って、爆発の煤がパラパラと降りかかり、お気に入りの漆黒のドレスのフリルを白く汚してしまいました。


「……っ! ヴィオネが徹夜で作ってくれた、わたくしの最高級ドレスが! 煤で汚れましたわーっ!!」


 わたくしの頭の中で、プチン、と何かが切れる音がしました。

 カツアゲ(?)は失敗するわ、ドレスは汚れるわで、わたくしの極悪非道なゲージは限界突破ですわ!


「許せませんわ! わたくしの極悪非道な裏路地散歩を邪魔した挙句、ドレスを汚すなんて! どこのどいつですの! 絶対に八つ裂きにしてやりますわ!」


 わたくしは怒り心頭で、爆発音がした路地裏の奥へと猛ダッシュしました。



………。

……。

…。



 爆発の発生源である路地裏の行き止まりは、周囲のレンガ壁が黒焦げになり、むせ返るような火薬と、暴走した不快な魔力の匂いが充満していました。

 そして、その黒焦げの壁を背にして、一人の少女がへたり込んでいました。


「はぁっ……はぁっ……くそっ……!」


 年齢は、わたくしよりも少し上、十五歳くらいでしょうか。

 泥と煤にまみれた健康的な小麦色の肌。ボサボサに伸びたショートカットの金髪。首には、重々しい鉄の『奴隷の首輪』が嵌められており、着ている服は麻布を継ぎ接ぎしただけの、見るも無残なボロ布一枚です。

 ……そして、わたくしが何よりも目を引かれたのは。

 彼女の胸元が、わたくしと同じように……いや、わたくし以上に、悲しいほどに『真っ平らな絶壁』であることでした。

 そのガリガリに痩せ細った体は、栄養失調の極みであり、全身には無数の鞭の跡や打撲傷が青黒く刻まれています。


「ちくしょう……! 近づくな! あたしに近づいたら……また吹き飛ぶぞ!!」


 少女は、絶望と恐怖に満ちた暗い声で叫びながら、両手を前に突き出しました。

 彼女の手のひらからは、制御を失ったオレンジ色と黒が混ざり合った不吉な魔力が、バチバチバチッ!と火花を散らしながら、今にも再び爆発を引き起こそうと膨張を繰り返しています。


「ギャハハハ! 無駄だぜ、『爆弾魔』の欠陥品め!」


 その少女を取り囲んでいたのは、武装した数人のガラが悪い男たちでした。手には鎖や刃物を持ち、下劣な笑みを浮かべています。


「奴隷商の旦那から、使い物にならねぇから殺して捨ててこいって言われたんだよ! スキルの制御もできねぇ、味方ごと吹き飛ばすだけのイカれた爆弾奴隷なんざ、誰も買い取らねぇからな!」


「大人しく首を差し出せ! これ以上暴発させて、俺たちまで火傷させたら、タダじゃおかねぇぞ!」


 男たちがじりじりと距離を詰めていきます。


「いやだ……! あたしだって、こんな力……欲しくなかったのに……!」


 少女の目から、大粒の涙がボロボロとこぼれ落ちました。

 彼女の魔力は、彼女自身の感情の乱れとリンクしているのか、絶望に呼応するようにさらに赤黒く膨れ上がり、周囲の空気がジリジリと熱を帯びていきます。

 このままでは、彼女自身を巻き込む大爆発が起きてしまう。彼女は、すべてを諦めたような、虚ろな目を細めました。


「……どうせあたしも、この街も、全部吹き飛んじゃえばいいんだ……! あたしは、ただの爆弾なんだから……っ!」


 少女が自暴自棄になり、その両手の魔力を完全に解放しようとした、まさにその時。


「お待ちなさいな!!」


 わたくしの、カン高い、怒りに満ちた声が路地裏に響き渡りました。


「……あァ?」

「……えっ?」


 男たちと、少女が、一斉にわたくしの方を振り向きました。

 わたくしは、漆黒のドレスの裾をバサァッ!と翻し、扇子を広げて、男たちと少女の間にズンッと立ち塞がりました。


「わたくしのシマ(路地裏)で勝手に騒ぐとはいい度胸ですわね! おまけにその薄汚い爆発、わたくしのドレスが汚れたらどう落とし前をつけるんですの! 全員、万死に値しますわ!」


 わたくしがビシッと扇子を突きつけると、男たちは一瞬ポカンとし、それから腹を抱えてゲラゲラと笑い出しました。


「ギャハハハ! なんだこのお嬢ちゃん! どこの貴族の迷子か知らねェが、スラムの路地裏でおままごととは傑作だな!」


「おいおい、よく見りゃ上玉じゃねぇか。その着てるドレスも高そうだ。奴隷の代わりに、この生意気なガキを裏ルートで売り飛ばせば、いい金になるぜ!」


 男たちが下劣な視線をわたくしに向けて、下品に舌舐めずりをしました。

 ……ふふん。どうやら、言葉で忠告しても通じない三流のゴミどものようですわね。


「お嬢ちゃん、怪我したくなかったら大人しく……」


「お黙りなさい」


 わたくしは、ドレスの袖をまくり上げ、己の指先を鋭い牙でカプッと噛み切りました。

 ツーッ、と流れる真紅の血。

 この二年間、血の滲むような猛特訓で鍛え上げた、吸血鬼の真祖としての圧倒的な魔力が、路地裏の淀んだ空気を一瞬にして払拭し、真空の嵐を巻き起こしました。


「顕現しなさい! 『鮮血の鞭(ブラッド・ウィップ)』・多重展開(マルチ・バースト)!!」


 パパパパパパパパパァァァンッ!!!


 わたくしの背後から、数十本にも及ぶ真紅の鞭が、まるで意思を持つ巨大な蛇の群れのように、空中に放射状に展開されました。

 赤黒く発光する魔力の鞭が、男たちの頭上でシュルシュルと不気味な音を立てて蠢きます。

 それは、路地裏の薄暗闇を真っ赤に染め上げる、圧倒的な暴力の具現化でした。


「なっ……!?」


「な、なんだこの異常な魔力は……! こいつ、ただのガキじゃ……!」


「さあ! 三流の悪党ども! わたくしのドレスを汚した罪、その身に刻み込みなさい!!」


 ビシィィィィィィィィィッ!!!


 わたくしが腕を振り下ろした瞬間。

 数十本の真紅の鞭が、一斉に男たちへと襲いかかりました。


「ギャァァァァッ!?」

「ぐはァッ! 武器が、鉄の剣が溶け……!」

「ヒィィッ! お、お助けェェッ!」


 バシンッ! ドゴォォォンッ!

 鞭は、男たちの構えた剣や鎖を紙のように容易くへし折り、彼らの粗末な革鎧を粉砕し、路地裏のレンガ壁を次々と抉り取っていきます。

 わたくしは、舞踏会でワルツを踊るかのように優雅にターンを決めながら、魔力の鞭を縦横無尽に操り続けました。

 血で手を汚すような野蛮な真似はしませんわ。ただ、完膚なきまでに叩きのめし、二度と立ち上がれないほどの恐怖を骨の髄まで叩き込んでやるだけですの!


「そぉれ! 右! 左! どうしましたの! 先ほどの威勢の良い笑い声はどこへ行きましたの!」


 ほんの数十秒の出来事でした。


「あ、あわわわ……」


「ば、化け物……いや、悪魔だ……!」


 土煙が晴れた後。

 そこには、武器をすべて破壊され、全身打撲で地面に転がり、恐怖で完全に白目を剥いて気絶している男たちの無残な姿がありました。


「……ふう。少しやりすぎましたかしら? まあ、わたくしのドレスを汚したのですから、これでも安いくらいですわね」


 わたくしは、乱れた金髪の縦ロールを指で払い、パチン!と扇子を開いて、優雅に口元を隠しました。

 完璧ですわ。ジェームスがいなくても、わたくし一人で立派に悪の蹂躙ができましたのよ!


「……な、なんだよ……あんた……」


 背後から、震える声が聞こえました。

 振り返ると、へたり込んでいた金髪のショートカットの少女が、わたくしを信じられないものを見るような目で見つめていました。


「あんたも……あたしの力が目当ての、クズなんだろ……?」


 少女の目には、再び暗い絶望の色が宿っていました。

 彼女の両手からは、まだバチバチとオレンジ色の火花が散り、今にも暴発しそうな魔力が渦巻いています。

 奴隷として扱われ、誰からも忌み嫌われ、最後には捨てられた彼女にとって、圧倒的な力を見せつけたわたくしなど、さらなる恐怖の対象でしかないのでしょう。


「……あたしのスキルは、誰にも制御できない! 近づけば、あんたも吹き飛ぶぞ! あたしは、ただ周りを壊すだけの、欠陥品の爆弾なんだ……っ!」


 少女が泣き叫び、その魔力が限界点を突破し、巨大な爆炎となって膨れ上がろうとした、その瞬間。


「力が目当て? 馬鹿なことを言わないでくださる?」


 わたくしは、爆発の熱波など意にも介さず、ズカズカと少女の目の前まで歩み寄りました。


「近づくなって言ってるだろぉぉっ!!」


 ドッガァァァァァァァンッ!!!!


 少女の両手から、強烈な爆発がゼロ距離で放たれました。

 凄まじい熱風と炎が、わたくしを飲み込もうと襲いかかります。


「……温いですわね。花火にしては、少し威力が足りませんわ」


 ――バシュゥゥゥゥッ!!


 わたくしの体から放たれた、桁違いの『真祖の魔力』が。

 少女の放ったオレンジ色の爆炎を、まるですっぽりと包み込むようにして、瞬時に圧縮し、かき消してしまったのです。


「えっ……?」


 少女は、自分の全力の爆発が、目の前の自分より小さな少女に傷一つつけるどころか、一瞬でねじ伏せられたことに、完全に呆然としました。

 わたくしの漆黒のドレスは、ヴィオネの『絶対防刃・オート温度調節機能』と、わたくし自身の魔力障壁により、焦げ跡一つついていません。


「いいこと? よくお聞きなさい」


 わたくしは、呆然としている少女の襟首をガシィッ!と掴み、強引に顔を近づけました。


「わたくしが欲しいのは、勝手に暴発するような不良品の爆弾ではありませんわ! わたくしの命令でしか爆発できない、絶対的な『わたくしのおもちゃ(奴隷)』ですのよ!」


「おもちゃ……?」


「そうですわ! お前が爆弾だろうが欠陥品だろうが、そんなの知ったことではありませんの! お前の魔力ごと、このわたくしが圧倒的な力で支配してやりますわ!」


 わたくしは、少女の首に嵌められていた鉄の『奴隷の首輪』に、真紅の魔力を流し込みました。

 パキィィィンッ!!

 という澄んだ音と共に、頑丈な鉄の首輪が粉々に砕け散りました。


「あ……」


「今日から、お前はわたくしのものですわ! わたくしが『爆発しろ』と言うまで、お前の勝手な自爆など、絶対に許しませんのよ!」


 わたくしの理不尽極まりない、強引な所有宣言。

 少女は、首輪のなくなった自分の首を震える手で触り、それから、わたくしの真紅の瞳をじっと見つめました。


「……なんで……。あたしに近づいたら、みんな怪我をするのに……。なんで、あたしを怖がらないの……?」


「怖がる? オーッホッホッホ! 冗談は顔だけにしてくださいな!」


 わたくしは、扇子で少女の胸元をツンツンと小突きました。


「わたくしが恐れるものなど、この世に一つしかありませんわ! それにしてもお前……わたくしと同じくらいの『見事な絶壁』ですわね! 栄養失調のガリガリで、見ていて不愉快ですの!」


「なっ……! ぜ、絶壁って言うな! ご飯、全然食べさせてもらえなかったんだから……っ!」


 少女が顔を真っ赤にして反論してきました。ふふん、やっと少し元気が出たようですわね。いつまでもメソメソされるのは、悪徳令嬢の趣味に合いませんのよ。


「よろしい! ならば、最初の拷問(めいれい)ですわ! お前をルミナリアの我が館に連れ帰り、我が専属シェフ・トーマスの作る『超豪華・高カロリーフルコース』を、毎日三食、お腹がはち切れるまで無理やり食べさせてやりますのよ! そして、その貧相な体を、ぶくぶくに太らせて絶望させてやりますわーっ!」


「はぁっ!? ご、豪華なフルコースを無理やり食べさせるって……それ、拷問なの!?」


 少女は、涙と煤で汚れた顔のまま、ポカンと口を開けて、わたくしという存在の理解に苦しんでいるようでした。


「当たり前ですわ! さらに、ふかふかのベッドに縛り付けて、毎日ぐっすり眠らせるという睡眠の拷問も追加してやりますのよ! 覚悟しなさい!」


 わたくしがふんぞり返って高笑いしていると。


「……ぷっ。あははっ……!」


 目の前で。

 絶望の淵に沈んでいたはずの少女が、わたくしのむちゃくちゃな理屈を聞いて、吹き出すように笑い声を上げたのです。


「な、なんですの! 何がおかしいんですの!」


「だって……あんた、すっごい悪そうなこと言ってるのに、全然怖くないんだもん……。むしろ、すっごく……温かい……」


 少女は、煤だらけの顔をくしゃくしゃにして笑い、それから、両手で顔を覆って、今度は安堵の涙を流し始めました。

 暴発する「爆弾魔」として恐れられ、捨てられた彼女の心に、わたくしの空回りする悪逆非道が、初めて「恐怖」以外の感情をもたらした瞬間でした。


「あたし……リナ。リナっていうの……」


「リナ、ですのね。わたくしはカーミラ・フォン・ブラッドレイ! 次期領主にして、世界を恐怖で支配する極悪非道な悪徳令嬢ですわ! さあ、リナ! わたくしの極悪非道な拷問の嵐に、震え上がる準備はよろしくて?」


 わたくしが手を差し伸べると、リナは、まだ火花の散る自分の手を少し躊躇いながらも……わたくしの白い手の上に、そっと重ねてきました。


「うん……。よろしく、カーミラ……様」


 その時、リナの手から伝わってきた魔力は、先ほどまでの荒れ狂うような暴発の気配を潜め、ほんの少しだけ、穏やかな熱を帯びているように感じられました。


 ……こうして。

 わたくしの『スラム街での極悪カツアゲ計画』は。

 偶然出会った絶望の戦闘奴隷を、圧倒的な力で屈服(という名の救出)させ、無償の愛と豪華な食事で養うという結果に終わりました。

 今回はジェームスがいなかったので、誰にも美談にされることなく、わたくし一人で完璧な悪の支配を完了させたと大満足しておりましたが……。


(まあいいですわ。この絶壁の少女を太らせて、わたくしの言うことしか聞かない忠実な爆弾奴隷に育て上げてやりますのよ! ……それにしても、わたくしと同じくらいの絶壁……これなら、わたくしが隣に並んでも、スタイルで負けることは絶対にありませんわね! オーッホッホッホ!)


 わたくしは、未来の『夢の王子様』の隣に立つ最強の自分を想像しながら、心の中で高笑いを響かせておりました。


 ……この時のわたくしは、まだ知る由もなかったのです。

 このガリガリで絶壁だったリナが、数年後、ルミナリアの豊かな食事(とトーマスの過剰な栄養管理)によって、わたくしの胸を遥かに凌駕する『あふれんばかりの爆乳』へと成長を遂げ。

 毎日のように「貧乳vs巨乳」の醜い口喧嘩を繰り広げることになろうとは。


 それはまだ、ほんの少し先のお話。

 わたくしの極悪非道な日々が、さらに騒がしく、そして愛おしく加速していく、未来のお話ですわ。

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