第10話 偽王の乱、平安京の虚飾

 本能寺の焔が、信長の放つ「覇気」によって極限まで圧縮され、ついに空間を爆発させた。義経と弁慶がその爆縮に飲み込まれ、次に目を開けたとき、そこは燃える寺院ではなく、極彩色に彩られた雅な都――平安時代の京であった。

​ しかし、その都は義経の知るそれとは異なり、不自然なほどに「虚飾」に満ちていた。

 羅生門の上には、現代の電光掲示板を模した巨大な呪印が踊り、貴族たちは十二単の下に不気味な強化外装(サイバネティクス)を仕込んでいる。

​「……何だ、この気配は」

​ 義経が歩を進めると、五条大橋のたもとに、異様な人だかりができていた。

 その中心で、一人の男が「今剣」に酷似した、だがあまりにも軽薄な装飾が施されたプラスチック製の太刀を振り回し、叫んでいた。

​「俺こそが! 壇ノ浦で平家を滅ぼし、死の淵から舞い戻った真の英雄! 源九郎義経なり!」

​ 男は、自らを「義経」と称していた。

 だがその姿は、トクリュウがSNSのトレンドから抽出した「理想の義経像」を継ぎ接ぎしたような、浅ましい姿だった。髪は不自然なほどに整えられ、顔には「美形」に見せるためのデジタルなエフェクトが常に重なっている。

​「偽義経、か」

 本物の義経が、低く呟く。

​ 偽義経は、トクリュウから支給された「承認欲求」を魔力に変える呪具を使い、平安京で大暴れしていた。彼は「闇バイト」で集めた検非違使たちを操り、自分の「物語」を彩るためだけに、無実の民を「平家の残党」として次々と処刑していた。

​「見ていろ! これが俺の『判官贔屓』だ! 民衆よ、俺を称えろ! 俺に『いいね』を捧げろ!」

​ 偽義経が呪具を起動させると、都中の人々の魂から、強制的に「賞賛」のエネルギーが吸い取られ、彼の力として蓄積されていく。

​「……静。奴が名乗っている名は、あまりに軽いな」

 義経は、包帯に巻かれた「鬼の腕」をゆっくりと解放した。本物の知盛の怨念が、目の前の「偽物の英雄」に対し、吐き気をもよおすほどの嫌悪感を示して咆哮する。

​「遮那王様。あの男の魂には、何の重みもありません。ただの『空虚なデータ』です」

 静御前の声にも、冷ややかな怒りが籠もっていた。

​ 義経は、五条大橋の中央へと一歩踏み出した。

「おい、自称・義経。……その名は、死を背負うには眩しすぎるぞ」

​ 偽義経が、ノイズの走る目で本物を見据える。

「何だお前は? 汚らしい亡者が……。俺の『輝かしい伝説』に、泥を塗るつもりか!」

​「伝説など、地獄に捨ててきた。……本当の義経(おれ)が、どんな『闇』を抱えて歩いているか、その身で味わってみるがいい」

​ 平安の月が、血の色に染まる。

 トクリュウが生み出した「偶像」と、時代を超えて業を背負い続ける「亡者」。

 偽りの平安京で、新旧二人の義経が激突しようとしていた。

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