花落ちるその時まで
@Chinatsu_
1. みえる景色
「赤い……火がたくさん……」
朝起きて、少女は開口一番にそう呟いた。
「どうしたのですか?」
少女よりさらに幼い子が起きるのを手伝いながら侍女が訊いた。
「ここ、全部赤くなっていたの」
そう続ける少女に、部屋の隅で朝摘みの花を活けていた少女の母が答えた。
「春香、赤くなっていたのはこのお屋敷?」
春香と呼ばれた少女は頷いた。
侍女は不思議な会話には耳を貸さず、下の子どもたちの朝の支度を始めていた。
「さ、今日は父上の大切なお客様が来るのですよ。どれを着ますか?」
少女の母は、娘の話に一瞬伏目がちに何やら思案したようであったが、それはほんの一瞬のことで、誰も気づかない。すぐに娘の話を変え、着物を出した。
「桃の色がいいです、かあさま。ちち様も桃が好きでしょう」
あどけなさの残る少女の話し方に侍女は少し眉を寄せたが、両親から愛されて育つ子の純粋な様子が嫌いではなかった。
それは平和を感じさせる光景だったからだ。
ーー時は戦国。
各国国衆や守護大名が戦国武将として名を馳せる前夜である。いや、すでに衰退する幕府や将軍周りの状況を好機と捉え、各地では争いが起こり始めていた。
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