腕時計にはロマンがありますよね。
世代をまたぎ、世紀を超えて、連綿と時を刻み続ける機械仕掛けのいとなみがあるのであれば、それはいつしか愛着をも超えるゆるぎない誇りとなっていく。
しかし、もしそれがふとしたとき、止まってしまったら?
形あるもの――それはどんなに大切にしていても、いつかは壊れてしまうもの。
長きにわたり愛用していれば、それが直る希望があるのであれば、あの頃のように再び動いてくれるところをもう一度、眺めたくなりますよね。
その必然ともいえる心理をもとにした、腕時計にまつわる人間ドラマがとても深いんです。
特に、主人公クーガーが腕時計職人を志した理由が、妻・ローラとのつながる語りにはグッときます。
この物語の時代背景から懐古的な時代錯誤が魅力的なだけでなく、収束する先に秒針のリブート感を呼び起こす読後感が、素晴らしい余韻を残してくれます。
止まっていた空白の過去は、再び躍動の刻へと託されていく。
世界の片隅で描かれる、時間と思想が織り成す再生の物語です。