第12話:幼き支配者

​意識を浮上させた私の鼻を突いたのは、焼け付くような硫黄の臭いと、肌を刺すような熱気だった。

目を開けると、そこは豪華絢爛ながらもどこか毒々しい、赤を基調とした玉座の間。

「……起きたか、カイロの小娘」

​顔を上げると、そこには意外すぎる人物が座っていた。

豪奢なドレスを纏い、身の丈ほどもある巨大な魔杖を抱えた、たった12歳ほどの少女。燃えるような真紅の髪をツインテールにし、宝石のような瞳で私を見下ろしている。

​「私が『炎の独占者』を統べる総帥、リリカ・フレアだ」

「えっ、本当に子供……!?」

「無礼な! これでも数々の炎魔法を操る天才魔導師だぞ!」

​リリカは憤慨して立ち上がった。どうやら見た目通りの年齢だが、才能は相当らしい。

「お前の噂は聞いている。火種も魔力も使わず、奇妙な袋で熱を生み出すとか。だが、そんな小細工が我ら至高の炎に勝てるはずがない」

​リリカは不敵に微笑み、杖を私に突きつけた。

「ならば、ここで白黒つけようではないか。お前の『カイロ』とやらと、私の『上級炎魔法』。どちらがより優れた『熱』であるか! お前が勝てば釈放してやろう。だが私が勝てば、その技術をすべて差し出してもらう!」

​◇◇◇

勝負の舞台は、地上数百メートルに位置する「紅蓮の塔」の最上階テラス。周囲には遮るものもなく、吹き荒れる吹雪がリリカの放つ熱気で瞬時に蒸気に変わっていく。

​「いくぞ! 灰すら残さぬ至高の炎……上級炎魔法『紅蓮の捕食者(サラマンダー・テイル)』!」

​リリカが身の丈ほどもある杖を地面に叩きつけると、魔法陣から火柱が噴き上がった。それは意思を持つかのように巨大な蛇の姿を形作り、大気を焼き焦がしながら私へと牙を剥く。

​(熱い……! 離れているのに前髪がチリチリする。でも、この魔法は『指向性』があるわ。なら――)

​私は『知力』をフル回転させ、計算を開始する。炎の蛇の温度、周囲の気圧、そして私のアイテムボックスに眠る「数万個のカイロ」の総発熱量。

​「ユキ、私の後ろに! 『カイロ無限生成・吸熱散布(エンドサーミック・バリア)』!!」

​私は空中に向かって、封を切った直後のカイロの中身――細かい鉄粉――を霧のように一斉に放出した。普通ならただの鉄粉だが、私は知力による微細な魔力操作で、鉄粉の粒子の密度を「炎を包み込む最適の配置」に固定する。

​「何だその黒い砂は! 燃え尽きてしまえ!」

​炎の蛇が鉄粉の雲に突っ込んだ。その瞬間、凄まじい爆縮音が響く。

鉄粉は炎の熱エネルギーを強引に取り込み、急速に酸化反応(発熱)を加速させた。炎の「魔力による熱」が、鉄粉の「物理的な熱」に変換され、エネルギーが分散していく。

​「なっ……私のサラマンダーが、あの黒い砂に食われているだと!?」

​「食ってるんじゃない。炎の熱を利用して、カイロの反応を限界まで早めただけ。……今だ、反撃!」

​私は霧散した鉄粉を、今度はリリカの周囲に集束させた。さらに、アイテムボックスから「未開封のカイロ」を数百個、彼女の足元に円状に敷き詰める。

​「『多重発熱・上昇気流(サーマル・アップドラフト)』!!」

​私が一斉にカイロを「活性化」させると、リリカの周囲の温度が爆発的に上昇した。逃げ場のない熱気は、石の床を加熱し、彼女の豪華なドレスを内側から蒸し上げていく。

​「あ、あつい……! 空気が……空気が焼けてる!?」

​「炎魔法は外に放つ攻撃だけど、私のカイロは『空間そのもの』を暖めるの。あなたが魔法を使おうとすればするほど、その熱がカイロの反応をさらに助けて、温度はどんどん上がるわよ!」

​リリカが必死に杖を振り、熱気を払おうとする。しかし、周囲を漂う熱々の鉄粉が、彼女が動くたびに服や肌に吸着し、じりじりと体温を奪っていく。それはまさに、数千個の極小カイロに全身を包囲されているような絶望的な状況。

​「くっ、私の魔力が……熱のせいで集中できない……! 意識が……」

​リリカの視界が歪み、膝がガクガクと震え出す。

私はトドメに、彼女の鼻先に「最高温度に達したカイロ」を一つ、ふわっと浮かせた。

​「……ギブアップする? それとも、もっと『あったかぁ〜い』おもてなしを続ける?」

​天才魔導師とはいえ、身体は12歳の少女。急激な温度上昇に耐えきれず、彼女は杖を放り出してへなへなと座り込んだ。

​「……ま、参った。もう無理、茹だっちゃう……」

​◇◇◇

​結局、勝負は私の完勝。

約束通り釈放……かと思いきや、リリカは真っ赤な顔で私の服を掴んできた。

​「認めん! 私は認めんぞ! なぜ魔力もない鉄の粉が私の魔法を凌駕したのだ! この事象は徹底的に分析する必要がある!」

「いや、勝負はついたし、私は帰るから……」

「黙れ! 敵を知るには懐に入るのが一番だ。今日からお前の監視役として、私が同行してやる!」

​「えぇ……?」

「総帥自ら現場に!?」「そんな、リリカ様!」「あの最上級炎魔法がなかったら私たちどうすれば!」と慌てふためく部下たちを無視して、彼女は勝手に私のカバンの中に自分の着替え(豪華なドレスと、まさかのぬいぐるみ)を詰め込み始めた。

​「勘違いするなよ? あくまで、その……『カイロ』という非論理的な力の弱点を見つけるためだからな!」

​ツンと横を向くリリカ。だが、その手にはちゃっかり、私がさっき渡した試供品のカイロが握られていた。

「……あったかぁ〜い。これ、お腹に貼ると最高だな……」

​こうして、私の旅に「自称・最強魔導師」のわがままロリ総帥が加わることになった。

ユキは新しく増えた仲間に、少しだけ警戒しながらも「キュイッ?」と首を傾げていた。

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