第9話 『R-地元住民指定』映画の制作に至るまでの道のり

「ありがとうございます。


 そもそも地元自治体主催の映画祭関連の企画ですから、今回のご担当者さんからお話をいただいた時、当然私には先ほど述べた地元自治体との価値観の違いという理由があって、一切お断りするつもりでいました。


 ところが、ずいぶん熱心な担当者の方でありながら、私が

『この映画を上映しない条件を受け入れてくださるならお受けします。』と申し上げますと、それ以上追求されなかったんです。


『なぜこの映画を上映できないか』を、深く聞かれたら断る気満々だったのですが、

意外なほどあっさり引いてくださったんです。

 今まで遭遇してきた地元自治体側の人には感じたことがなかった、相手に対するリスペクトがあったんです。


 私は思わず

『貴方は地元の方ですか?』って、聞いてしまいましたよ。そしたら

『生まれも育ちも、この町です。』と答えられたものですから驚いた。

 地元にも私と価値観が近い方がいらっしゃるものなんだなぁと、勝手ながら思いまして。そういう方がいてくださるのは、本当に嬉しい。


 担当者の方があの方でなければ、私は今

 この地元自治体主催の映画祭関連の企画の場に立って、皆さんの前でお話をしていなかったと思います。」


 西原がそう言うと、紗也の隣にいた由紀子が

「やったね。」と言わんばかりの笑顔で、紗也の脇腹を肘で突ついた。


 西原の話は続く。


「地元って、我々にとっては本当にアウエーでしてね。

 20年以上活動してきて、いまだにつくづく実感しています。

 我々にとって47都道府県中最大のアウエーが、地元なんですよ。

 私たちの『協龍衛隊ガード龍マン』の活動って、始めた当初から県外からのオファーや、お問い合わせをいただくことがほとんどだったんですね。


 だから、県外の方からのお問い合わせのフォーマットに慣れているわけです。

 それが普通だと思っていたんです。


 例えばこんな感じ。

 会社の電話が鳴って僕が取りますでしょ。そうすると先方さんが


『もしもし。お忙しいところ、突然に申し訳ございません。

 私、〇〇県にあります〇〇という会社の〇〇と申します。


 御社の『協龍衛隊ガード龍マン』につきまして、お尋ねしたいことがございまして、お電話させていただきました。

 差し支え無ければご担当者の方を、お願いできませんでしょうか。』って、おっしゃる。


 普通でしょ?

 私はこれが一般的に普通だと思うんです。それで


『お電話ありがとうございます。

 私が協龍衛隊ガード龍マン担当の西原と申します。』と答えるわけですよ。


 ね。そうしますと先方が


『西原さんですね。

 ご対応ありがとうございます。


 早速ですが、この度弊社で〇〇県が主催する環境イベントを請け負うことになりまして、つきましては御社の協龍衛隊ガード龍マンショーを上演いただけないかと思い、ご連絡させていただいた次第なんですが、お願いしてもよろしいでしょうか。』

 なんておっしゃる。


『もちろん大丈夫です。

 日程的にはどの辺りになりますでしょうか?』とお聞きすると、大抵2~3ヶ月以上先のお話がほとんどですから、調整も予定も立てやすい。


『それでは、お手数をおかけして誠に恐縮なのですが、クライアントに提示できる資料がございましたら、送っていただきたいのですが、よろしいでしょうか。』と言われますから


『もちろんございますので、お送りさせていただきます。

 ホームページをご覧になられたんでしょうか?』


『はい、ホームページを拝見して連絡させていただきました。』


『そうしましたらホームページに、当時はですよ。今はフォームになってますけど、当時はメールアドレスを記載してたんですね。なので、メールアドレスに空メールを送っていただきましたら、資料を添付して返信させていただきます。』


『そうしていただけますと助かります。

 では、この後メールを送らせていただきます。』


『承知しました。では、メールをお待ちしております。

 ちなみにご予算は、どのくらいをお考えでしょうか?』とお聞きすると


『あ、そうですよね。大切なことを失念するところでした。

 ありがとうございます。

 そちらからですとちょっと遠方になりますし、

 私どもといたしましても、前日に入っていただいた方が安心ですので、

 交通費と宿泊代を含めた形で、お見積もりをいただいてもよろしいでしょうか?』


『承知しました。

 ではお見積書と一緒に資料を添付送信させていただきますね。』


『よろしくお願いします。』


『こちらこそよろしくお願いします。』という形で、協龍衛隊ガード龍マンショーの、オファーやお問い合わせのやりとりが行われるんです。


 私はこれが普通だと思ってました。


 丁寧な言葉遣いになってますが、お取引もあるビジネスでもありますから、相手へのリスペクトも含めて、これが普通の形だと思ってます。


 県外の方からは全部こんな感じですから、これに私は慣れてるんです。



 地元自治体の業者は違いました。


 会社の電話が鳴って

『はい、もしもし〇〇です。』と会社名で僕が取りますでしょ。そうしますと


『ああ、なんとか隊なんとかレンジャーをやっている会社さんか?』


 もういやでしょ?私は嫌なんですよ。


『お宅がやってる、なんとか隊なんとかレンジャーを、今度の自治体イベントで使ってやろうと思っているんで、資料を送ってくれる?』


 どこに?


 その前にお前は誰?名を名乗れ!って、思うわけですよ。もう嫌なんです。


『表示されてるお電話番号を調べて、会社の方にお送りすればいいですか?』って聞くと


『ああ、そうしてくれたらええわ。早よしてよ、来月のイベントなんやから。』


 これが地元自治体が高く評価して仕事を任せている業者ですからね。



 ちなみに一応、私が言いたいことを、みなさんにあらかじめお伝えしておきますね。地元業者は必ず途中に被せてきますから。

『ちなみにご予算はどのくらいをお考えでしょうか?』

 これを私は言いたい。大事なことですからね。


『ちなみにご予算は』と言ったところで食い気味にくるんですね。


『ええっ!?金取るんか?!

 地元やぞ。地元のイベントなんやから協力してくれんと困る。』


 勝手に困っとけ。


 じゃあ、地元業者のあんたは、この仕事を無料でやってんのか?って聞きたくなりません??


 そもそも

『地元なんだから協力しろ』って、誰がどの立場で与えている権限なのでしょうか。 


 おそらく発注元の自治体が、業者にそんな権限を与えているんでしょうね。

 でなければ、こんなに堂々と上から、悪びれることなく言ってこれないでしょうからね。


 しかし、そんな権限に従う法的義務があるんでしょうか?

 私はないと思っていますから、お断りしましたけどね。


 やりがい搾取です。


 つまり、このやりがい搾取でイベントに起用することこそ、この地元自治体のイベントで、業者が自治体行政から高く評価される手法なんだと思います。


 地元の業者からの問い合わせは、ほぼこの形でしたからね。



 そもそも

『地元なんだから』って言葉はですね、

 私は、相手から強要される言葉じゃないと思っているんです。


 例えばおかげさまで今、協龍衛隊ガード龍マンは、いろんなところからお声がけいただいています。


 映画をご覧くださった県外の方の中には、医療機関にお勤めの方もいらっしゃるみたいでして

『入院している子どもたちに、映画のシーンのような体験をさせたい』と言って、医療機器メーカーさんや医薬品製薬会社の方にもお声がけくださってご尽力いただき、いろんな病院でガード龍マンの登場シーンを実現させてもらっています。


 イベント業者の方もいらっしゃるんですね。

 フライヤーを見て、協龍衛隊ガード龍マンのホームページにアクセスしてくださって調べられるんでしょうね。


『環境イベントでショーをされてますよね?

 私どもの方の環境イベントに来ていただけませんか?』というお話を随分いただいております。


 まるで今まで20年以上やって来たことを、半年でやるくらいの感じで、あちらこちらからお声がけいただいて、

 本当に嬉しい限りありがたい限りです。



 でもこうなる以前の、つまり無名の時代にですよ。


『おまえたちがやってることは絶対いいことだから、

 誰かに否定されても頑張れ。俺たちは応援してるからな。』って、言ってくれる地元の人も稀にいるんです。


 その声のおかげで、活動を継続する気が切れずにきて、地元を名乗る業者のやりがい搾取を避けて継続してきたからこそ、映画出演につながって、そのおかげで全国いろんなところから、お声がけいただく状態にしてもらったわけです。


 こんなふうにならせていただいた時にはやっぱり、無名の時代に応援してくださった地元の方に、協龍衛隊ガード龍マンで僕らにできる何かがあれば、したいじゃないですか。


 だから地元のイベントがあるとわかった時に

『俺たちにも協龍衛隊ガード龍マンで、何か手伝わせてくださいよ。』って、言うじゃないですか。


 でもそういう人たちは、きっとね

『何言ってんだ。お前らは県外で戦ってきてんだ。

 お前らが県外で頑張ってくれたおかげで、俺たちの街も知られるようになったんだ。

 地元に帰ってきた時くらいゆっくり休め。

 何もするな。イベントでただ遊んで楽しんでくれ。』なんて言うんですよ、きっと。


 無名の時代に応援してくれる人って、そういう人たちなんです。


 そういう人たちだからこそ、ますますこっちも役に立ちたくなるから

『地元なんだから、俺たちにも何かやらせてくださいよ。』って、言うんですよ。


『地元なんだから』は、こっちの、俺たちのセリフであって、強要する側のセリフでは絶対ないはずなんです。


 でも、それをまるで権限のように、自治体から高く評価されている業者は言うんですね。

 特に地元で『無名』の『他にはないこと』をやってる相手に対して。


 地元自治体行政が高く評価してる業者は、やりがい搾取してくるから信用できないって思いが強くなって、例えば私たちのように県外で認められることがあったら、それをきっかけに県外に出て行く。


 県外に出てそこで認められたら、もう地元には帰ってこないんです。


 帰ってくる意味がありますか?

 帰ってこない方が幸せなんですよ、やりがい搾取されなくて済むんですから。



 だから権限をもった立場の人が『地元なんだから』を振りかざして自分たちの利益だけを肥やしてる地域では、郷土愛というか地元に対する思い入れが、どんどん希薄になっていくように思います。


 でも地元しか知らないと、そういうものだと思っちゃうじゃないですか。思わされてしまうんですよね。


 我々のように早い段階で、県外の業者さんとやりとりする機会があれば

『あれ?』って、疑える機会というか、立ち止まって見ることもできますけど、自治体行政が高く評価してる業者としか接点がなければ、比較ができないですから


『ええっ!?金取るんですか?!地元ですよ。地元のイベントなんだから協力してくれないと困ります!』って、言われてごらんなさい。


『地元のイベントに出してもらえるんだから、今回は自腹切って協力するか。』になりますよ。


 でもそれをやったら最後、永遠に自腹を切り続けなきゃならなくなるんです。


 次に声がかかった時に費用の話をしようもんなら

『ええ?前回タダでやってくれたのに?』とか

『どこそこではタダでやって、うちからは金取るんか?』って、言われるんですよ。


 そんなこと続いてたら継続できなくなって、活動自体をやめるか、地元のイベントを避けるようになるんですよ。


 こんな環境で、本当に健全に、文化が育ちますか?


 新しい展開が生まれ育つと思いますか?


『宣伝になるんだから』と言ってくることもあります。

 仕事に結びついた試しなんて、一切ないですけどね。


 仕事に結びつかなかったからと言っても

『宣伝になるんだから』と言ってきた奴らは、自分たちの言葉に一切責任取りません。

 言ったことも忘れてるんじゃないですかね。

 そういうものです。


 経験上、そういう人たちだと認識する方が安全です。


 くどいようですが、それが地元の自治体から高い評価を得ている業者の姿であり、自治体から与えられる高い評価は結局、やりがい搾取をいかに積極的に狡猾に行うかという姿勢と実績なんだと思います。


 これを、私の価値観では全く理解できないので、早い段階で距離を取ることにしました。

 そのおかげで、今まで継続してこられたんだと確信しています。」

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