文書番号:FO-0034

亡命者証言記録


記録日:連邦暦210年 雪の月 3日

記録機関:ヴェルタ共和国 国家安全保障局 難民支援部

証言者:エリック・ノイマン(元エデン共和国市民 市民番号AE-221-0934)

聞き取り担当:調査官 レナ・ハルト

記録形式:逐語記録



以下、証言者の発言をそのまま記録する。


――


仕事の話から始めます。


国家活力省の製造部門に八年いました。やっていたのは、搬入されてくるユニットの組み込みです。手順書通りにやるだけの仕事です。搬入伝票を確認して、等級を見て、対応するラインに流す。


ユニットがなんなのかは考えませんでした。考えない方がうまくいく職場でした。


三年目に気づいたのは、事故みたいなものです。


B等級のユニットを組み込みラインに載せたとき、手が滑って、直接触れました。普段は手袋をしているので触りません。素手で触れた瞬間、何か、わかったんです。形じゃないんです。温度でもない。何と言えばいいか。


(十二秒の沈黙)


知っている人でした。隣に住んでいたおじさんです。半年前に「国家貢献プログラムに選ばれた」と言って出ていきました。家族が誇らしそうに見送っていたのを覚えています。


上司に報告しました。口頭です。報告書は書いていません。「気のせいだ」と言われました。翌週、別の部署に異動になりました。


それからは普通に暮らしていました。忘れようとしていました。忘れられました。人間は忘れられるんです。五年間、忘れていました。


娘の徴用通知が届いたのは、それから五年後です。


(八秒の沈黙)


その夜、娘を連れて出ました。妻には話しました。全部。何を見たか。何に使われるか。妻は黙って聞いていました。聞き終わってから「国家への裏切りだ」と言いました。来ませんでした。


――


(以下、調査官の質問に対する応答)


問:エデン国内で、実態に気づいている市民は他にいたか。

答:わかりません。話せる相手がいませんでした。


問:奥様は、あなたの話を聞いた上で残ることを選んだのか。

答:はい。


問:奥様はなぜ残ったと思うか。

答:(七秒の沈黙)……信じなかったんだと思います。信じたくなかったのかもしれません。同じことです。


問:娘さんの現在の状況は。

答:ヴェルタで学校に通っています。エデンに帰りたいと言っています。


問:娘さんに、ご自身がエデンで何の仕事をしていたか話したことはあるか。

答:ありません。


問:エデンが何をしているか、娘さんに説明したことは。

答:ありません。


問:なぜか。

答:あの国を好きなまま生きられるなら、その方がいいからです。


問:いつか話すつもりはあるか。

答:(沈黙)



調査官所見

証言者の供述は、他の亡命者三名の証言内容と整合する。精神鑑定の結果、虚偽供述の兆候は認められなかった。

証言者の娘について、適応支援プログラムへの継続登録を推奨する。



公文書館注

本文書は連邦暦210年に記録され、連邦暦221年に情報公開法に基づき開示された。

証言者の妻クララ・ノイマンの市民番号は、連邦暦211年以降、国民登録データベースに存在しない。

娘の氏名は、本人の希望により非公開とする。

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