第5話:不採算部門の強制執行
夜の帳が下りたゴミ山。そこは本来、静寂と腐食だけが支配する場所だった。
だが今、レグルスとリサの足元では、青白い魔導光の回路が血管のように這い回り、不毛な土壌を「基板」へと上書きし始めている。
「マスター、仮設演算サーバーの設置完了。防壁(ウォール)の構築を開始しますか?」
「いいえ、リサ。まずは『材料』が足りない。……僕たちの要塞には、もっと莫大な資本が必要だ」
レグルスはリサの操るドローンの群れを空へ放った。
サーチライトが夜のゴミ山を切り裂き、その映像が全世界へとライブ配信される。画面の隅では、深夜にもかかわらず「伝説の計数師」の再起を目撃しようとする視聴者数が、指数関数的に跳ね上がっていた。
ライトが照らし出したのは、巨大な岩石に半分埋もれた、古代の魔導掘削機の残骸だ。
「……見つけたぞ。かつて僕がいた組織の台帳で『修復不能なジャンク品』として、減価償却すら諦められていた負債(ゴミ)の山だ」
レグルスはモノクルを調整し、泥に塗れた銀色の塊を見据えた。
リサの瞳の中でデータが激しく明滅し、掘削機の損傷箇所を瞬時に解析。配信画面には、その「真の価値」を証明する修復データがホログラムとしてオーバーレイ表示される。
「リサ、出力30%。演算を触媒にして、回路の目詰まり(バグ)を強引にバイパスしなさい」
「了解。……定義を上書き。これは『残骸』ではなく、稼働可能な『資産』です」
次の瞬間、轟音とともに掘削機の巨大なドリルが火花を散らし、再起動を果たした。
配信画面は、奇跡を目撃した視聴者たちの熱狂と、天文学的な速度で跳ね上がる入札額で埋め尽くされていく。ゴミ同然だった残骸が、一瞬にして要塞建設のための莫大な「軍資金」へと変わった。
レグルスは土煙の中で、冷ややかに笑った。もはや、この成果に驚愕しているであろう古巣の反応など、彼の計算には1ミリも含まれていない。
「世の中の人間は、目に見える『赤字』に怯え、その奥にある本質を見ようとしない。だが、真の価値は常に、誰もが目を背ける場所に埋まっているものだ」
彼は夜空に輝くドローンの光を背に、静かに、そして鋭く告げた。
最大のリスクは、変化しないことだ。……かつて、近代経営の真理を説いた賢人はそう言いました
入札終了の電子音が響く。
レグルスは背を向け、まだ「建設途上」の暗いゴミ山の奥へと歩き出した。
「決済完了。……さあ、リサ。稼いだ資金で資材を買い叩くぞ。夜明けまでに、この山を僕たちの『銀行』へ作り変える」
「肯定。……マスター、次の演算対象、捕捉しました」
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◆ 作者のあとがき
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Season1完結(第12話)まで、毎日18:05に欠かさず更新いたします!
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▼ 今日の経営講話(名言・設定補足)
【格言】
「最大のリスクは、変化しないことだ」
【解説】
Meta(旧Facebook)の創業者であり、今なお世界の最前線で挑戦を続ける実業家、マーク・ザッカーバーグ氏の言葉です。
「急速に変化する世界で、唯一失敗が約束されている戦略は、リスクを取らないことだ」という彼の哲学は、停滞した異世界の経済を塗り替えようとするレグルスの姿勢そのもの。
変化を拒み、旧来の権威にしがみつくギルド長バッカスに対し、自ら「変化」という嵐を巻き起こすレグルス。二人の決定的な差が、損益の明暗として現れ始める回となりました。
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※この物語はフィクションです。実在の人物や事象とは一切関係ありません。
※作中の格言は演出のための引用であり、特定の思想を推奨するものではありません。
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