第28話

「……何だ、その氷像は?」


 凍り付いたアンネリーゼと共に現れたアレクシスに、フルフェイスの黒い仮面を装着した男――九十九が問う。

 アレクシスは肩を竦める。


「個人的欲求を満たすためにちょっかいをかけたら、手痛いしっぺ返しをくらっただけだ」

「滑稽だな」


 九十九が凍り付いたアンネリーゼに触れる。


「……なるほど、溶けない氷みたいなものか。相手は人間だったか」


 九十九は感心したように言う。

 同時にこの事象を引き起こした存在に興味を抱く。

 故に――、


「我、魂の赫灼かくしゃくをもって乞い願おう。焼き尽くすは堕ちた清浄。怒りは汝の情景。故に我がほむらで汝の恩讐のことごとくを灰にしよう。恨むといい。憎むといい。嘆くといい。その全てを我が抱いて、我が受け止めよう」


 宙に幾何学模様きかがくもようの魔法陣が朱紅あかい輝きを放ちながら幾重にも重なる。


生命巡廻せいめいじゅんかい。我が焔にて、その終わりを見届け、汝の新たな始まりを切に願わん」


 聖歌えいしょうの終わりと共に魔法陣の輝きは増す。

 そして、凍り付いたアンネリーゼを包み込むように、白焔の渦が逆巻いた。


 これは九十九の世界にて、とある魔法少女が使用していた長文詠唱魔法。

 そして、九十九が彼女から継承した形見となる魔法。


 その魔法名は――生命巡廻の聖焔アグニカ・リンカーネイション


 白焔が絶対に溶けないはずの氷を解かしていく。

 少しの炎上の後、白焔の中からアンネリーゼが飛び出してきた。


「熱いよぉ! もう、少しは手加減しても良いんじゃあないのぉ?」

「……助けてやっただけ、感謝しろ。文句を言われる筋合いはないのだが?」

「もー、九十九君は意地悪だねぇ?」


 反省の素振りすら見せず、解凍直後でありながら平常運転のアンネリーゼ。

 アレクシスは眉間を抑えながら、溜め息を吐いていた。


「本来であれば一生氷像だったはずだったのだ。九十九には感謝するのだな」

「まー、それはそうだねぇ。ありがとうねぇ、九十九君」


 アレクシスの言葉に頷きながら、アンネリーゼが九十九へと感謝を述べた。

 が、九十九は特に反応を示さない。

 仮面を装着していることもあり、その表情は誰にも読み取れない。


「それでぇ? 九十九君がわざわざ私を助けたってことは聞きたいことがあるんじゃぁないのぉ?」


 アンネリーゼは背中で手を組みながら、九十九の周りをくるくる回りながら歩く。


「ああ、そうだ。アンネリーゼ……お前を凍結させた人間はどんな奴だった?」


 その言葉を聞いたアンネリーゼはニンマリと笑みを浮かべる。


「あー、気になっちゃう? そうだねぇ……私の最愛の人かなぁ?」

「…………」

「あー、その感じ嘘だと思ってるぅ? でもねぇ、これは嘘じゃないんだよぉ? あんなに歪んだ表情を見せて、私に殺意を向けてくれる人なんて早々いないからねぇ。それに弱くないのもポイント高いからねぇ」


 アンネリーゼの恍惚とした表情から、九十九は対象になっている人間に対して憐れみを抱いた。

 恐らくその人間はアンネリーゼを殺しきるまで、ずっと粘着され続けることになるからだ。


「もしかして彼に手を出す気かなぁ?」


 ジロリとアンネリーゼが九十九を睨む。


「彼は私の彼氏だからあげないよぉ?」

「……別にいらん。あと彼氏じゃないだろう。何、少しばかり気になった」

「ふーん……何をする気かなぁ?」


 アンネリーゼの問いを無視し、九十九は二人に背を向けた。


「行くのか?」

「ああ、あくまでアンネリーゼを解かすために呼ばれただけだからな」

「そうか。我々の使命を忘れないことだ」

「…………善処しよう」


 アレクシスの言葉にそう答えを返すと、九十九は一言何かを呟くと同時に姿を消す。


「ふーん、相変わらず便利な力だよねぇ」


 アンネリーゼは感心しながらアレクシスへ話しかける。


「奴にもいろいろあるのだろう。九十九の持つ力の大半は継承された魔法らしいがな」

「なるほどねぇ……死んだ魔法少女の力を継承しているんだっけぇ? 何ていうか、九十九君って重いよねぇ」


 アンネリーゼはクスクス笑いながら言う。

 それにアレクシスは特に何かを答えることなく、溜め息を吐いた。


「神水守秋雨だったか? 奴にまだ関わるつもりか、アンネリーゼ」

「当然だよぉ。ここまで私を痛ぶった人って始めただからさぁ――次はもっと苦しめてあげるんだぁ」

「……感情の高ぶりが人類の進化を促進することには同意する。だが、あまりにも悪趣味が過ぎる」

「そうかなぁ? 憎しみこそが人を最も美しく、成長させると思うんだけどなぁ」


 アンネリーゼの思想をアレクシスには理解ができない。

 だが、過程は兎も角、最終的な目的が一致している以上は何か言うつもりもない。


「今回は九十九君に譲ってあげちゃお」

「……良いのか?」

「うん。どうせ九十九君の事だし、試すんじゃないのぉ?」


 九十九は様々な世界を渡り歩き、その世界の核となる人物と対峙してきた。

 今回もその一環だとアンネリーゼは思っている。


「きっと気に入ると思うんだぁ。だって、彼と九十九君って似た者同士だからねぇ

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