『ハズレ勇者の鎮魂歌(レクイエム)〜魔法不能の【剣神】は裏切りの果てに家族の元へ帰る。その意志は、世界を焼く魔王に託されて〜』

青茶とうご

第1話:落日の勇者と黄金の檻

視界が真っ白に弾け、鼓膜を裂くような耳鳴りが残響した。

 アスファルトを叩く雨の音も、衝突の瞬間に響いた嫌な金属音も、すべてが遠い彼方へ消え去っていく。

「――目覚めよ、異世界の救い手よ」

 厳かな声に導かれ、フウガが薄く目を開けると、そこは見たこともない巨大な石造りの広間だった。天井は高く、ステンドグラスから差し込む七色の光が、床に描かれた複雑な魔法陣を照らしている。

(……生きてる……のか?)

 事故の痛みはない。だが、全身を襲う奇妙な倦怠感。

 混乱するフウガを取り囲むように、豪奢な法衣を纏った老人たちと、重厚な鎧に身を固めた騎士たちが跪いていた。その中心、一段高い玉座に座る国王が、傲慢な笑みを浮かべて見下ろしている。

「ようこそ、勇者フウガ。我が国の危急を救うため、古の術にて召喚させてもらった」

 状況が飲み込めないまま、フウガは「適性測定」の祭壇へと立たされた。

 この世界において、魔法は絶対の真理。魔力の多寡が、そのままその者の価値を決める。神官が震える手で、水晶に浮かび上がった文字を読み上げた。

「……属性適性、無し。魔力保有量、零。……固有スキル……『鑑定不能』、および『魔法耐性』」

 一瞬、広間が凍りついたような静寂に包まれた。

 国王の眉が不快げに跳ね、跪いていた騎士たちの間から、隠しきれない落胆と嘲笑が漏れ始めた。

「魔力なしだと? 百年に一度の神事で呼び寄せたのが、魔法一つ使えぬ『無才のガラクタ』だというのか!」

 宰相の怒号が響く。先ほどまでの「救い手」への敬意は、霧のように霧散していた。

 フウガは呆然と自分の手を見つめた。確かに、魔力などという不思議な力は宿っていない。ただ、その代わりに――。

(……見える。あの騎士の剣の、振るい方の癖が。あの柱の、一番脆い場所が)

 だが、その直感は誰にも届かない。

「陛下、送還の術は存在しません。……地下の兵舎へ放り込んでおきなさい。魔法が使えずとも、盾の代わりにくらいにはなるでしょう」

 引きずられるように広間を出るフウガ。その去り際、柱の影から不安げにこちらを見つめる、一人の少女――姫の瞳があった。

 それが、後に「ハズレ勇者」と呼ばれる少年の、孤独な始まりだった。

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