七年前に別れた御曹司と再会したら、 子供が取り違えられていたと告げられました
@yunjin
第1話
まるでドラマの中に出てきそうな恋だった。
私は社会に出たばかりの新人秘書。
そして彼は、揺るぎない立場にいる常務だった。
「これからよろしくお願いします。
カン・ヒョヌと申します。」
冷たい印象とは裏腹に、
その日、彼は優しい笑みを浮かべながら手を差し出した。
その手を握った瞬間、
温かい体温が伝わってきた。
ヒョヌは完璧な男だった。
仕事も、社交も、すべて隙がない。
彼は経営を学ぶために入社した御曹司だという噂もあったが、
私はそんなことを気にしたことはなかった。
私は彼が専務に昇進できるよう、
秘書として全力で支えた。
それが、私の役目だったから。
そんなある日。
「アラムさん、
今、僕がいる場所に来られますか?」
土曜日の夜だった。
彼から週末に連絡が来たのは初めてだった。
理由を聞く前に、
もう一通メッセージが届いた。
【📍位置情報:ホテルレストラン】
その住所を確認した瞬間、
私の手が一瞬止まった。
「常務、どうされたんですか?」
私はいつも通りスーツを着て、
彼の元へ向かった。
彼は窓際の席に座り、
ワイングラスをゆっくり傾けていた。
グラスの中の赤い液体が、
静かに揺れていた。
「今日、お見合いだったんだけど。
振られた。」
ヒョヌは軽く手を動かし、
向かいの席を示した。
私は少しぎこちなく座った。
「食べたいものがあれば言ってください。」
メニューを受け取ったが、
すべて英語だった。
見慣れない料理の名前。
初めて見る単語ばかり。
しかも、どれも高そうだった。
「わ、私……こんな高い料理はちょっと……」
「僕たち、一度も会食したことないですよね?」
彼はメニューを閉じながら言った。
「今日は会食だと思ってください。
僕、一人で食事するのが嫌いなんです。」
彼はウェイターを呼び、
慣れた様子で料理を注文した。
やがて料理とワインがテーブルに並んだ。
「じ、常務。
私、運転しないといけないのでお酒は……」
私が戸惑うと、
ワインを注いでいた彼の手が止まった。
そして、ふっと笑いながらグラスを置いた。
「じゃあ、ここに泊まっていけば?」
「……え?」
「部屋を取るから。
今日はここに泊まっていけばいい。
部屋のコンディションも悪くないし。」
私は戸惑ったが、
その場の雰囲気に流されてワイングラスを持った。
彼とグラスを合わせる。
ワインの深い赤色が、
照明の下で静かに輝いた。
一口。
甘かった。
柔らかくて深い味が、
舌の上でゆっくり広がった。
いつの間にか空気は柔らかくなり、
時間が過ぎるのも忘れて笑いながら話していた。
普段より、ずっと気楽だった。
私たちはグラスを満たし、
そして空けることを繰り返しながら、静かに笑っていた。
どれくらい時間が経ったのかも分からなかった。
ふと気がつくと、
周りは静かになっていた。
いつの間にか、レストランは閉店の時間になっていたのだ。
彼と一緒にエレベーターに乗った、その瞬間。
ハイヒールがぐらりと揺れ、
バランスを崩した。
「アラムさん、危ない。」
その瞬間、
彼の腕が私の腰をしっかりと掴んだ。
近すぎる距離。
彼の体温がはっきりと伝わってくる。
そして――
一瞬、静寂が落ちた。
私は慌てて体を離し、
ぎこちなく笑った。
「す、すみません。常務……」
すると彼は私を見つめながら、
ゆっくりと言った。
「二人きりの時は、
“常務”って呼ばなくてもいいですよ。」
私は驚いて彼を見上げた。
「じゃあ……何て呼べばいいんですか?」
彼は一瞬ためらい、
少し照れたように後頭部をかいた。
「ヒョヌさんって呼んでください。
それか……」
その時、エレベーターの扉が開いた。
「……オッパでもいいですよ。」
彼は、
私の反応を待つように見つめていた。
頭の中が一瞬真っ白になる。
でも、不思議だった。
変だと思うはずなのに――
いつの間にか、
私は彼の腕を掴んでいた。
少し赤くなった顔で、
おそるおそる口を開く。
「も、もう一杯……飲みませんか?」
彼はしばらく私を見つめていた。
廊下の薄暗い照明の中で、
彼のシルエットがくっきり浮かび上がる。
鍛えられた体格が、
いつもより大きく見えた。
近くにいるほど、
彼の存在感に圧倒される。
暗闇の中でも、
彼の気配ははっきりとしていた。
彼の目が、ゆっくりと深くなる。
何かを決めたような、
揺るぎない視線。
「……一杯だけ。」
低く、優しい声。
その瞬間。
彼の手が、そっと私の手を包んだ。
そして――
引き寄せられるように、
私は彼の隣を歩いた。
ホテルの部屋のドアが、
ゆっくりと開く。
そして静かに――
閉まった。
澄んだ大きな瞳が、
潤んでゆっくり揺れていた。
長いまつげがかすかに震え、
淡い杏色の唇がわずかに開く。
もともと白い肌だったが、
お酒が回ったせいか頬から耳元まで赤く染まっていた。
まるで夜明けの光が差した
薔薇の花びらのようだった。
彼女は首を少し傾けながら、
私を見上げた。
少し赤くなった目元で、
細く笑う。
「はぁ……顔が、すごく熱いです。」
吐き出す息は、
柔らかく甘かった。
彼女は手の甲で頬を隠しながら、
恥ずかしそうに顔を逸らした。
けれど――
その仕草が、
かえって私を刺激した。
赤く染まった頬。
酒に少し酔った、潤んだ瞳。
小さな唇が、
わずかに開いては閉じる。
「アラムさん。」
私の声は、自然と低くなっていた。
ドン。
彼女の背中が、
冷たい壁に触れる。
私の腕が彼女の腰をしっかりと抱き寄せた。
逃げ場はない。
完全に、
私が彼女を囲い込んでいた。
息を整える暇もなく、
視線がぶつかる。
その瞳は、
深く、強かった。
そして――
唇が触れた。
熱かった。
乱暴ではない。
だが、迷いもなかった。
最初は慎重に。
けれど、
次第に深くなっていく。
私は彼女の腰を抱き上げた。
腕に力を込めると、
彼女の体がふわりと浮く。
「……っ」
彼女は無意識に
私の肩を掴んだ。
心臓が激しく鳴る。
呼吸が、
次第に荒くなる。
いつの間にか、
柔らかなベッドが背中に触れていた。
私は彼女を見下ろしながら、
ゆっくりとネクタイを外した。
「どれだけ我慢してたか、分かる?」
低く、深い声。
彼女は息を飲みながら、
私を見上げる。
「……どれくらい、ですか?」
私は彼女の手を握った。
そして、
とても低い声で答えた。
「初めて会った時から。」
私の腕が、
ゆっくりと彼女の背中を抱き寄せる。
その瞬間。
熱い息が、
すぐ近くに落ちた。
そうして――
夜はゆっくりと更けていき、
朝が来るまで、
私たちは離れなかった。
それから私たちは恋人になった。
会社では上司と秘書。
けれど会社の外では、
誰よりも優しい恋人同士だった。
ストレスが溜まった日は、
屋台で鶏の足をつつきながら焼酎を飲み、
お互いを慰めた。
長い連休にはお金を貯めて、
東南アジアへ旅行にも行った。
「今日ミスして、常務に怒られちゃった。」
「……その常務が悪いな。」
そんなくだらない冗談を言い合いながら、
毎日が思い出になっていった。
そんなある日。
「キム秘書、ちょっと会議室へ。」
秘書総括チーム長が直接私を呼びに来た。
表情がどこか暗い。
(私、何かミスしたのかな……)
緊張しながら会議室のドアを開けた。
そこには、
見知らぬ中年の女性が座っていた。
「キム・アラム秘書ですね。」
彼女は私の社員証をちらりと見て、
座るように手で示した。
何かがおかしい。
彼女の話し方も、雰囲気も、
すべてが。
「ご用件は……?」
見えない圧力に、
声が震えた。
すると彼女は静かに言った。
「私はカン・ヒョヌ専務の母です。」
その瞬間。
空気が一気に冷えた。
「単刀直入に言います。」
彼女の目が鋭くなる。
「うちのヒョヌは、
この会社を継ぐたった一人の後継者です。」
用意された台詞のように、
淡々とした口調だった。
頭の中が真っ白になる。
(まさか……あの噂、本当だったの?)
私は何も言えず、
ただ彼女を見つめていた。
彼女は続けた。
「住む世界が違う人間は、
結局は別れるものです。」
穏やかな口調。
けれど、
一切揺るぎのない態度。
まるで、
すでに決まった結論を告げるように。
「それは……」
何か言おうとした瞬間。
彼女が私を見つめながら言った。
「キム・アラム秘書。」
ゆっくり、
はっきりと名前を呼ぶ。
「お父様は小学校の校長先生でしたよね?」
心臓がぎゅっと締めつけられた。
(まさか……)
(私のこと、調べたの?)
彼女は表情を変えないまま言った。
「もうすぐ定年退職だとか。」
そして静かに続けた。
「もし、その立派な経歴に……
脱税でも見つかったら、どうなるでしょう?」
息が苦しくなった。
手が震える。
あまりにも卑劣な脅しだった。
けれど――
私は何も言えなかった。
この人なら、本当にやりかねない。
そう思ってしまったから。
「来週から別の地域へ異動してもらいます。」
彼女は腕時計を見ながら言った。
「仕事は優秀みたいですから、
年収と役職はもっといい条件にしてあげます。」
「ヒョヌを専務にするために
頑張ってくれたみたいですしね。」
彼女は服を整え、
バッグを持って立ち上がった。
ドアの前で、
最後に言った。
「こうやって生きるのが順序というものです。」
「そんなに悔しがらなくてもいいですよ。」
「ヒョヌには……
背負わなければならないものが多いのですから。」
彼女が会議室を出たあと、
様々な感情が一気に押し寄せた。
恐怖。
父への侮辱。
そして――
悔しさ。
息をするのも苦しかった。
でも、
私にできることは何もなかった。
戦おうとも思えなかった。
最初から、
私が勝てる相手じゃなかった。
私は静かに息を吐き、
会議室を出た。
カン・ヒョヌ。
彼は最初から、
私とは住む世界が違う人だった。
⸻
それから。
私たちは別れた。
そして――
七年後。
私は別の男性と結婚し、
子供を産み、
幸せに暮らしていた。
時々、
時々だけ彼を思い出すことはあった。
けれど子供の顔を見ると、
そんな記憶もすぐに薄れていった。
完全に過去の話だと思っていた。
――その電話が来るまでは。
「お子さんが……取り違えられていました。」
たった一本の電話が、
四人の運命を
大きく揺るがすことになる。
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